ユニクロの中国戦略に「国潮」の荒波

中国の国内ブランドの躍進と、新たなファストファッション企業の台頭についての話題です。巨大市場である中国で、新しい世代に受け入れられる国内ブランドが成長することは理解できます。その一方で、新たなファストファッション企業が中国で、世界で次々に誕生し、更なる価格破壊を起こす可能性があるという論調には違和感を覚えます。生活に密着したファッション産業の未来は、既存産業構造の環境負荷を低減し、持続可能な産業として再生、発展するという方向であって欲しいと思います。

2021年12月13日付け日本経済新聞電子版に掲載された記事より、

中国のファッションブランドが存在感を高めている。巨大な消費市場である中国国内では国産ブランドを支持する「国潮」が大きなトレンドを巻き起こし、欧米市場では中国発の新興アパレル「SHEIN(シーイン)」がデジタル技術を駆使した販売戦略で勢いを増す。”

中国「李寧」の店舗

”11月11日、中国最大のネット通販セール「独身の日」。アリババ集団傘下の「天猫(Tモール)」で躍進した中国ブランドがある。李寧(リーニン)だ。スポーツ用品の取扱高ランキングで3位となり、初めて独アディダスを抜いた。首位は米ナイキ、2位は中国の安踏体育用品(ANTA)だった。李寧は中国の体操選手として活躍した李寧氏が創業したスポーツ用品メーカーだ。販売は好調が続いており、2021年7~9月期の既存店売上高は前年同期に比べ20%台後半の伸びとなった。”

中国では、李寧のような国産ブランドを好む若者が増えている。中国の伝統的な文化のエッセンスを取り入れた商品が人気で「国潮(グオチャオ)」というトレンドを生んでいる。国潮は中国と潮流を掛け合わせた造語。10代後半から20代の「Z世代」が消費のけん引役だ。中国のZ世代の中核である1995~2009年生まれの若者は、日本の総人口の倍以上の2億6000万人に上る。中国経済の成長とデジタル化の恩恵を受けてきた彼らは、SNS(交流サイト)や電子商取引(EC)を通じ最先端の流行を追う。”

中国のユニクロ店舗

”「中国大陸は今までどおり、毎年100店ずつ出店していきたい」。カジュアル衣料「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングの柳井正会長兼社長は10月の決算説明会で、中国事業の展開についてこう語った。ファーストリテイリングの中華圏の営業利益は2021年8月期の連結決算(国際会計基準)で1002億円。日本国内は1232億円だった。営業利益ベースで日中が逆転する日はそう遠くはないだろう。中華圏のユニクロ事業の営業利益はこれまで年2割ほどのペースで増えてきた。しかし、この勢いが続くとみるのは楽観的かもしれない。中国本土には出店余地があるが、これまでのようなペースで伸び続けるビジネスではなくなってきている。アジア市場は日本人の体格に近い消費者が多く、ファーストリテイリングにとっては収益拡大に欠かせない地域だ。韓国は不買運動の影響が残り、東南アジアはコートなどが売れる冬が短いため、おのずと中華圏の重要度が高まる。だがここにきて、李寧や安踏体育といった中国ローカルブランドが力をつけてきているのだ。”

オンライン販売に特化した「SHEIN」

”「最大85%OFF」「まとめてお得!」。鮮烈な赤色が目を打つショッピングサイトに、手ごろな価格で買える衣類やアクセサリーの写真とともに、お買い得感を前面に打ち出したフレーズが並ぶ。その名は「SHEIN(シーイン)」。誕生から10年にも満たない新興アパレルだ。シーインのマーケティング手法は類を見ない。まずオンライン販売に特化し、世界150以上の国・地域に展開する。人口知能(AI)で流行を分析し、多様な新商品をタイムリーに販売する。顧客が動画投稿サイトで自由に宣伝するなど、ソーシャルメディアの活用も極めてうまい。”

シーインは日本だけではなく、欧米や新興国でも若者を中心に支持が広がり、急成長している。市場の推計によると年間の売上高は100億ドル(約1兆1300億円)を超えている。米国では今年前半にファストファッション市場で一時、H&Mを上回るシェアを獲得した。シーインを運営するのは南京希音電子商務という中国の会社だ。非上場だが、主要株主は米ベンチャーキャピタル(VC)のセコイア・キャピタル、米ファンドのタイガー・グローバル・マネジメントといった有力投資家の名前が伝わる。

「シーインがファストファッションにもたらすディスラプション(創造的破壊)」。米モルガン・スタンレーは10月、こんなテーマのリポートをまとめた。シーインの成功はアパレル業界への参入の壁が低くなっていることを示しており、業界に同じようなディスラプションを起こしうる新規参入者が向こう10年でさらに出現する可能性があるというものだ。モルガン・スタンレーは、シーインの台頭をきっかけにアパレル業界で更なる低価格化が進むとみている。シーインとそれに続くディスラプションは、欧州のH&M、米国のギャップやアバクロンビー&フィッチなどの地位を脅かし、将来的にはファーストリテイリングへの脅威が高まると見通している。”

中国で飛躍するスポーツ用品の李寧は売り上げの9割超を中国国内が占めているが、最近は米国や日本など海外でも徐々に知名度を上げている。中国の「Z世代」の若者から支持を得て成功を収めることで、グローバル市場に打って出るファッションブランドが増えても不思議はない。米ネット通販のアマゾンの台頭は店舗を持つ小売企業の脅威となった。シーインの急成長はファストファッション業界に同じような現象をもたらすのだろうか。“

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