人はなぜ服を着るのか?

人はなぜ服を着るのでしょうか?「裸でいると恥ずかしい」という理由は置いておくとして、先ずは身を守る(防御、防寒などの機能)ためでしょうか。流行の装いをすることで得られる高揚感や優越感のためでしょうか。しかし流行(トレンド)は生まれてくるのではなく、業界によって作られていることを関係者は知っています。身に着けるものによって他者と差異化するためでしょうか。これはある種の自己主張ですよね。その逆に、他者と類似するものを身に着けることによって集団への帰属を示す(安心感を得る)ためでしょうか?日頃はあまり深く考えることはないですが、興味深いテーマではあります。

2025年2月12日付け日本経済新聞電子版に掲載された記事より、

皆さんは服にいくらお金をかけますか。総務省の調査によると、2024年は1世帯(2人以上世帯)当たり年約12万円で、バブル期の25~30万円と比べて大幅に減りました。着こなしやオシャレに対する価値観はどう変化したのでしょうか。ファッションの歴史をたどると「人はなぜ服を着るのか」という問いが浮かびます。”

“1980年代に日本で一大ブームを巻き起こしたのは、DC(デザイナーズ&キャラクターズ)と呼ばれる特定のデザイナーによる個性的な高級ブランドでした。ブームをけん引したのは丸井です。分割払いで憧れのブランドが手に入ると、若者たちは熱狂しました。借金をしてまで数万円もする普段使いの服を買うなんて、ちょっと信じがたいですよね。当時は大衆が小集団に分かれ、個を追求する消費への転換期。他者との差異を表現することは、自分という存在を確かめるうえで非常に重要な行為でした。

服は時代の空気を可視化します。バブル崩壊後は一転、今度はお金をかけずに楽しめるカジュアルな装いでストリートが染まりました。街から多くの流行が生まれたのもこの時です。裏原宿から発信された「裏原系」、よれよれのネルシャツやダメージデニムなどの「グランジ系」ファッション人気の波に乗り、古着もブームになりました。”

ファッションには、規範への反逆性という側面があります。DCブランドの時は全身同じブランドで統一するのが当然のごとく思われていましたが、カジュアル化の波とともに、異なるブランドを合わせる単品コーディネートが主流となっていきました。どう着こなすかを決めるのは私たち消費者だというわけです。”

長引く不況の下、2000年代にはファストファッションが台頭し、欧米から「トップショップ」「フォーエバー21」などが相次ぎ日本に上陸しました。ファストファッションには光と影の両面があります。最先端の流行を取り入れた服を、セレブだけでなく誰もが楽しめるようにした「ファッションの民主化」は大きな功績です。しかし、あまりの安さに服への愛着が薄れ、人々は数回着ただけで捨てるようになりました。頻繁に新製品を激安で投入するウルトラファストファッションといわれる中国系の「SHEIN(シーイン)」。過剰消費をあおり、環境汚染を生み出しているとして同社への批判も高まっています。”

“2011年の東日本大震災の時は、平穏な暮らしが突然崩れる現実を突きつけられ、ささやかな幸せを大切にしながら一日一日を丁寧に過ごそうと意識するようになりました。そんな意識は装いにも表れ、ナチュラルな色合いで、ゆったりしたシルエットの天然素材の服が支持されました。その後、ノーマルとハードコアを組み合わせた「ノームコア」(究極の普通)を追求したスタイルがはやり言葉として浮上します。ノームコアという言葉を知らなくても、米アップルの創業者スティーブ・ジョブズ氏の着こなしと聞けばピンとくるかもしれません。服を選ぶ時間とエネルギーをも仕事に費やすために、いつもイッセイミヤケのタートルネックにリーバイス501のデニム姿でした。シンプルへのこだわりを貫く同氏の哲学を反映したスタイルは、日本でも多くの人に影響を与えました”。

流行や個性を主張するのではなく、着る人がそれぞれの目的で自在に組み合わせればいい。究極の普段着を目指したユニクロは時代の先を読んでいました。ユニクロを着ているのが他人にバレると恥ずかしいとの声が聞かれた時期もありましたが、気づけば、オシャレな人もそうでない人も、年齢、性別、国籍を問わずユニクロを着ています。ZARAと業績面で比べられることが多いですが、トレンドを追求するZARAとは目指す世界が全く違います。”

ユニクロの古着売り場

そして今、再び古着ブームの到来です。新品に比べて価格が安くて個性を表現できるところに魅力を感じている人が多いようですが、流行を追求することへの疲れもあるでしょう。SNSの影響で流行のサイクルがどんどん短くなっていて、はやったと思ったらあっという間に色あせます。若い皆さんの環境意識の高まりもあり、今回はブームで終わらず文化として定着する可能性があります。古着をどう事業として軌道に乗せるか、アパレル企業は様々な実験を試みています。正解のない時代では、問う力が求められます。ファッションには自分のこととして捉えられる問のテーマがたくさんあります。なぜ人は服を着るのか、なぜ流行に巻き込まれるのか考えてみても面白いかもしれません。”

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