号外:黒潮「大蛇行」が過去最長、漁業や気候への影響大きく

日本近海の海流図

海にも川のような流れがあります。この川のような(周期的に変化せず、ほぼ一定の向きや速さ)流れを海流といいます。日本周辺では北から冷たい海水が流れてくる寒流(リマン海流、親潮)と、南から暖かい海水が流れてくる暖流(黒潮、対馬暖流)があります。これらの日本周辺の海流の中で、黒潮が蛇行(流れが変化)して、漁業や気候に影響を与えています。ここにも自然現象の複雑な連鎖を見ることができます。地球環境を保全することの重要性を改めて感じます。

2022年5月3日付け日本経済新聞電子版に掲載された記事より、

2017年8月に始まった黒潮の「大蛇行」は、4月末で過去最長となった。本流が岸から大きく離れて曲がりくねるため、漁場の位置が変わり、養殖魚や海藻類が大量死・消滅する被害も出ている。関東や東海の猛暑や大雨にも影響することがわかってきた。黒潮の流れは今も弱く、大蛇行が終わる気配はない。影響はさらに長期化する見通しだ。”

過去の黒潮大蛇行の記録

黒潮のように流路が大きく変化する海流は世界でもないという。大蛇行は観測体制が整った1965年以降、これまでに6回発生している。直近の3回は1年数ヶ月の「短命」に終わっている。今回の大蛇行は1975年8月~1980年3月の4年8ヶ月を抜いて過去最長となる。”

太平洋近海の初ガツオ漁が不調だ。漁獲量日本一の静岡県では、御前崎や焼津など主要5港の3月の漁獲量は3.2トンで、2021年の1割ほどにとどまる。和歌山県も田辺や串本など主要3港の1~3月の水揚げ量は32トンと、昨年同時期の1割にも満たない。静岡から和歌山の近海では3~5月、小型漁船によるカツオ漁がピークを迎える。暖かい海を好むカツオは暖流の黒潮に乗って回遊する。今年は黒潮からの流れ込みが弱くて水温が低く、カツオが漁場にいないという。

海洋速報(5月1日)

原因とみられるのが黒潮の大蛇行だ。黒潮は通常、日本列島の南に沿って北東へ流れる。海上保安庁の速報によると、5月1日時点で黒潮は足摺岬沖で南にカーブし「ひ」の字を描きながら紀伊半島や伊豆諸島を通って房総沖へ流れている。黒潮が進む海域に行けばカツオは獲れるが、高騰する燃料費が大きな負担になる。昨年は豊漁だった。大蛇行していたが、ひの字の部分が今年よりも東に寄っていた。伊豆諸島を北上して房総沖は向かう黒潮の奔流から分岐した暖かい潮が遠州灘や熊野灘に流れ込んだため、海水温が高くなっていた。2月から多くのカツオが水揚げされた。和歌山では大蛇行になってから、好調と不漁が年ごとに入れ替わっている。

黒潮の分岐

”黒潮は暖かく、植物プランクトンのエサになる窒素やリンなどの栄養分が少ない。流路の変化は漁業に大きな影響を及ぼす。国立研究開発法人の水産研究・教育機構が茨城から鹿児島の14都県に調査したところ、ワカメやヒジキ、アオノリなどの海藻類が広い海域で生育が悪くなり、アコヤガイなどの貝類、ハマチやカンパチなどの養殖魚が大量死する被害が出た。一方で、暖かい海を好むサワラやブリなどは好調だった。黒潮大蛇行だけが原因かはわからないが、地球温暖化も重なり、海水温上昇による影響が出ていると分析している。”

黒潮大蛇行の漁業への影響

”長期化することで懸念されるのが気象への影響だ。東北大学の杉本周作准教授は「大きく蛇行しているときは、関東から東海に欠けて蒸し暑い夏になりやすい」と指摘する。コンピューターを使ったシミュレーションで、黒潮から枝分かれした潮が遠州灘や熊野灘に流れ込む場合、関東の気温は平年より約0.6度上がった。ほとんどの人が蒸し暑いと感じる「不快日」が6割程度増えた。海面温度が高くなって増えた水蒸気が季節風に乗って関東へ流れ込み、熱気を閉じ込める効果が働いていたという。2020年8月17日、浜松市で41.1度という国内の最高気温を記録した。このとき、黒潮は大蛇行になっており、枝分かれした潮の影響で遠州灘から熊野灘にかけての海域の水温は平年より3度ほど高かった。紀伊半島での豪雨や冬の南関東の大雪との関連も指摘されている。杉本准教授は「大蛇行に伴う水蒸気が関東以西の太平洋岸の気候に与える影響は大きい」と強調する。”

大蛇行は九州の南東沖で生まれる小さな蛇行がきっかけとなるが、原因はよくわかっていない。黒潮の流れが速ければ蛇行は解消されるが、今は勢いがなく、流量も少ない。そもそも近年の温暖化で黒潮は勢いを増し、大蛇行は珍しくなると予想されていた。実際に今回は発生自体が12年ぶりだが、長期間持続し、終わる兆候も見えない。大蛇行の行方が自然任せである以上、被害や損害を減らすには、例えばカツオから温暖化で豊漁のサワラへの切り替えといった「次善の策」を進めるしかなさそうだ。”

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