号外:プラス2℃:農耕地減少

気候変動は食料生産へ深刻な影響を与えます。地球の総人口は依然として増加傾向にあり、2023年には世界で7億人以上が飢餓に直面したといわれています。食料自給率が低い日本では、今後も必要とする食料を輸入に頼って手に入れられると楽観することはできないでしょう。食糧安全保障は私たちにとって身近なリスクなのです。

2024年11月19日付け日本経済新聞電子版に掲載された記事より、

“「2100年、北極海にホッキョクグマがいなくなった。アザラシなどを捕獲するための移動手段に使っていた海氷が気温上昇の影響で減り、狩りができない。栄養失調に陥り、子孫を残すこともできなくなった・・・」”

“国際自然保護連合によると、気候変動の影響を受けて絶滅危惧種となった野生生物は2024年11月時点で7412種。2000年の約10種から急増した。生息地の環境が変化し、食物がなくなった。食糧危機は人間の世界にも忍び寄る。アフリカでは2023年春~24年に記録的な干ばつに襲われた。南アフリカではトウモロコシの収穫量が平年に比べ1割減った。気温上昇に伴い、異常気象が増えているとの指摘がある。国連は7月、2023年に世界で7億1300万~7億5700万人が飢餓に直面したとの報告書を出した。

身近な食卓にも異変が出始める。海水温上昇の影響を受け、北海道では昆布の生産量が約30年で3分の1に減少。寒い季節に旬を迎えるカキは生育が遅れ、宮城県や広島県は出荷解禁日を10月下旬と、例年より3週間から1ヶ月遅らせた。気温上昇は農業の適地を減らす可能性がある。赤道に近い低緯度の地域ほど農産物の収穫量が落ちるとの試算もある。国際連合食糧農業機関と国連のデータから試算すると、世界の人口1人あたりの耕作面積は2050年時点で2000年比31%減る。手をこまねいていたら、世界で限られた食料を奪い合う状況になり、飢餓人口のさらなる増大につながりかねない。”

“打開策の一つが気候変動に強い遺伝子だ。標高600メートル超の山岳地帯にある長野県塩尻市の長野県畜産試験場。立っているだけで汗が噴き出る8月の猛暑のなか、生まれたばかりの子ウシが気持ちよさそうに日なたに寝そべっていた。ウシの最適気温は0度から20度程度とされ、通常は猛暑で体調を崩す。カリブ海のウシが持つ暑さに強くなる遺伝子を受け継いだ。2023年から始めた交配によって生まれた新しい品種だ。暑さに強くなれば、気温上昇下でも乳製品を安定供給できる。”

“徳島県阿南市にある樫山農園の水田では11月、今年2度目の稲刈りを終えた。水田で刈られたのは二期作ができるコメだ。東南アジアで一般的だが、農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)が日本向けに開発した。農研機構の中野洋氏は「温暖化に抵抗するのではなく、その環境を生かす発想だ」と話す。”

温暖化が一定以上進行すると、品種開発だけでは対応が追い付かなくなる。国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)はプラス2度の水準まで気温が上昇すると「現在の技術では、多くの栽培地で複数の主要生産物が適応の限界に達する」と指摘する。品種改良による対策は時間稼ぎはできるが、気候変動の問題を根本的には解決できない。農研機構の長谷川利拡氏は「気候変動の原因となる温暖化ガスの排出量の削減との両輪で対策を進めることが欠かせない」と指摘する。”

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