気候変動による「長い夏」、ファッションビジネスにも異変

2019年11月23日付け日本経済新聞電子版に掲載された記事より

“今年の代表的なヒット商品が新海誠監督の「天気の子」だ。異常気象が日常的になる近未来を描いた作品は興行収入が100億円を突破した。天気と言えば、今夏電車に乗っていると、車内モニターにこんなタイトルの情報が流れていた。「令和の東京の夏は昭和・平成より50日長くなる!?」

“情報の提供企業はエアコンのダイキン工業。東京生まれ・東京育ちの男女500人に夏について聞いたアンケート調査だった。あくまでも体感調査だが、想像以上に極端な結果が出ていた。「10歳の頃の夏の期間はいつからいつまで」との質問に対して20代から60代まで年代に大差なく、「始まりが6月下旬から7月中旬。終わりが8月中・下旬」との回答だった。夏はざっと約50日間だ。これに対して現在はどうかと聞くと「始まりは6月上旬・中旬・終わりは9月中旬・下旬」で、夏が約100日に倍増しているのだ。ちなみに気象庁の統計では真夏日や猛暑日は長期的に増加傾向にある。”

“グローバル化、デジタル化に加え、気候の変化が消費に影響を与えているのは間違いない。「5~9月までが夏商戦。もはや4シーズンではない。」と言われている。売れ筋商品の変化もここ10~20年で著しい。熱さまし用シートが普段使いとして売れ、食欲が減退する猛暑日にはスポーツ用ゼリー飲料が一般用に売れる。”

とりわけ「長い夏」の影響を受けたのがファッション産業だろう。オンワードホールディングスは全店の約20%に当たる600店を閉め、三陽商会は2020年2月期に4期連続の赤字になる見通しだ。”

百貨店を中心とした大手アパレルが苦戦している要因のひとつが、海外のファストファッションやユニクロに代表されるカジュアル衣料の台頭です。そしてこのカジュアル衣料の台頭を後押ししたのが「長い夏」です。

“主要繊維の生産量を見ると、1980年代までは綿花や羊毛の天然素材が大半だが、90年代からポリエステルやナイロンなどの合成繊維が増え始める。00年代には過半数を占め、10年代以降は完全に主役となった。低価格で量産が可能で、機能性に富むのが合成繊維の特徴だ。特に吸湿速乾、涼感など夏場に効果を発揮し、需要が急増。従来のアパレルには閑散期だった夏に、カジュアルファッションが新たな価値を提供した格好だ。しかも夏日が増え、合繊系の衣料を使用する期間も延びる。季節感は薄れ、四季に応じたビジネスを展開していた従来のアパレルにとって商機は年々しぼんでゆく。”

この結果、ファッション志向も様変わりしました。05年に政府が提唱したクールビズ以来、ノーネクタイが定着しました。夏だけでなく、オールシーズンでスーツ姿のドレスコードは減っています。しかも近年は女性も若者世代も流行を追わなくなりました。シンプルなカジュアルファッションの広がりは、「服による差異化」をビジネスにしてきた従来型ファッションアパレルにとっては大きな環境変化です。

“新興アパレルではこうした変化をとらえ、夏のビジネスを組み立て直そうとしている。アースミュージック&エコロジーは「来年から夏物衣料を45日間長く売る」という商品戦略を打ち出している。「長い夏の流れはしばらく続く。これまでは季節軸だったが、今後は気温軸で考える必要がある」と述べている。”

カジュアルファッションがこの20年間で急拡大した一方で、衣料廃棄物の問題がクローズアップされています。衣料廃棄物の処理(主として焼却)が地球温暖化の一因であるとの指摘もあります。低価格と機能性だけを訴求する商品戦略だけでは十分ではなく、今後は環境に配慮した商品企画やビジネスモデル(サステイナビリティ)が必要になってきます。世界的に出遅れていると言われている日本でも環境意識は高まってきています。これまでファッションというと「川下」の消費者志向をつかむことが重要でしたが、今後は原料起点の環境に配慮したバリューチェーン構築という「川上」重視の姿勢が必要になってきています。

非常に興味深い記事だったので引用が長くなりましたが、いくつかのポイントがあります。

①地球温暖化の影響で日本の夏が長くなっている。

②「長い夏」にともない、売れ筋商品が変化する等、気候の変化が消費に影響を与えている。

③ファッションの分野でも、「長い夏」に対応したカジュアル衣料が台頭し、四季に応じたビジネスを展開している従来型のファッションアパレルは苦戦している。

④ファッションのカジュアル化に伴い、使用される素材が従来の天然繊維中心から、低価格で機能性(吸湿速乾、涼感等)に優れる合成繊維へと代替されている。

⑤地球温暖化との関係で、衣料廃棄物の問題がクローズアップされている。日本市場でも消費者の環境意識は高まってきており、ファッションビジネスにおいても環境に配慮した取り組み(サステイナビリティ)がますます重要になってきている。

衣料品の素材として合成繊維が増えていますが、合成繊維の主たる原料は有限な石油です。また衣料品を焼却すれば温室効果ガス(CO2)を排出します。衣料品を、合成繊維をリサイクルする技術とシステムの必要性が増しています。

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