伊藤忠と日本気象協会がアパレル需要予測

新年明けましておめでとうございます。今年もファッションと環境配慮にまつわる情報を発信していきます。よろしくお付き合いください。

天候に売り上げを左右されるビジネスは沢山あります。食料品、特に飲料や家電もそうですし、シーズン商品であるアパレルも天候の影響を受ける典型的な業種です。暖冬であれば冬物重衣料の、冷夏であれば夏物軽衣料の売れ行きが落ちます。長雨や台風では店舗への客足が遠のき、これも売り上げに響きます。今年のコロナ禍は想定外の特殊要因でしょうが、アパレル各社は大きな打撃を受けました。シーズン毎に商品の生産が先行していますから、販売が計画よりも大幅に落ち込むと、今度は売れ残り在庫に苦しむことになります。天候をコントロールすることは難しいですが、天候を予測する技術は年々進歩しています。うまく活用してリスク低減に役立てたいものです。

2020年12月16日付け日経ビジネス電子版に掲載された記事より、

伊藤忠商事日本気象協会が2021年、アパレルの需要予測サービスのテスト運用を春夏商品向けから始める。気象データを基に販売の見込みを割り出すという。コロナ禍で打撃を被っているアパレル業界は大量生産モデルの転換を迫られている。これまでのような大まかな需要予測ではないデータ分析が浸透すればビジネスが大きく変わりそうだ。”

アパレル業界は慢性的に過剰在庫に苦しんでいる。欠品を恐れながら発注しているが、売り切ることができなければ在庫としてのしかかる。翌年に持ち越しても管理費などがかかる上、トレンドが重要なアパレル業界では売れる保証もない。廃棄を選んでもコストがかかる。そこで値下げしてでも売り切ろうとするが、結果として粗利が悪化し、ブランド価値の低下リスクも抱えるという負の循環に陥っていた。”

需要予測の精度があがれば競争力に結びつくが、トレンドや気候、ターゲットの客層といった変数が多く、正確に割り出すのは難しい。伊藤忠と日本気象協会は連携し、気象データを基に中長期的に発注の判断に資する需要予測をアパレル各社に提供する。ビジネスの本格運用は2022年の春夏商品からになる見通し。2024年までに30社への提供を目標に掲げる。近年、アパレルの過剰在庫はSDGs(持続可能な開発目標)の観点からも厳しい目を向けられていた。在庫を適正な水準に保つことで、アパレル業界のサステイナビリティを高められるとしている。

まず伊藤忠がアパレル各社から販売データを集め、日本気象協会が分析する気象データを掛け合わせる。「翌年は気温が低くアウターの売上が〇%増加する」というような見込みをグラフなどに落とし込む。日本気象協会によると「気象庁の予測だけでなく、世界で最も精度の高い欧州の気象予測も利用する。最長で半年後の長期予測が可能になる」という。生産調整や期中の追加発注にも活用してもらう。

“2021年からのテスト運用に参加するナノ・ユニバース(東京・渋谷)を傘下に持つTSIホールディングスは、「これまで自社でも3年ほど前から気象要因の分析をしてきたが、高い精度で活用できるのは大体1か月後の予測までだった」という。1か月の予測では生産調整などに活用できないため、中長期予測の精度向上に期待を寄せる。日本気象協会はこれまでも気象データを用いた需要予測サービスを展開してきた。豆腐メーカーの相模屋食品(群馬県前橋市)と連携し、寄せ豆腐の食品ロスを30%削減した実績もある。アパレルではアダストリアなどに予測を提供してきた。伊藤忠と組むことで、アパレル業界全体に需要予測サービスを広げていきたい考えだ。

アパレル業界の在庫を適正にできれば、素材や服を供給する商社にもメリットは大きい。アパレルの過剰在庫の持越しによって翌年の受注が予想よりも減るといった事態を防ぐことができるためだ。アパレル各社が期中に売り切ることを前提とすれば、こうした商社側の悩みも解決する。さらに伊藤忠は需要予測を契機にこれまで取引のなかった企業との関係を深めたい考えだ。”

アパレル業界の過剰在庫はコロナ禍で改めて顕在化した。大量生産モデルが立ち行かなくなっており、各社はセール前提の生産をやめ、粗利を高めていく方針にかじを切り始めている。正確な需要予測は新しいビジネスの形態を模索する上でも欠かせなくなる。

アパレルの需要予測において、天候はあくまでも大きな変数の1つで、他にも影響力のある要素(トレンド、ターゲット客層、価格帯など)が色々あります。しかし、天候について精度の高い予測を入手、活用できれば、天候以外の要素への対応により集中することができるようになります。精度の高い気象予測(それが可能だとして)を織り込んで、そこからアパレルの需要予測を導き出すプロセスで、伊藤忠商事やアパレル各社が持つノウハウが重要になります。この新しい需要予測を活用して、アパレル業界特有のロスを減らすことができれば、業界がサステイナブルに生まれ変わる一歩になると思います。

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