号外:CO2再利用のカーボンリサイクル、CO2を資源に

菅義偉首相は10月の所信表明演説で「2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする」と宣言しました。決して容易ではない目標達成に向けて切り札になりそうなのが、CO2を資源として再利用する技術です。先日CO2の地下貯留について触れましたが、CO2の排出を完全に抑制することは困難です。しかしCO2を大気中に排出するのではなく、回収して地下貯留したり、再利用したりすることは可能です。CO2の排出量を9割削減できる発電所や、CO2を原料とする素材など、幅広い分野で技術開発が進んでいます。様々な技術の組み合わせで、CO2の排出を「実質ゼロ」にすることが期待されています。

2020年11月20日付け日本経済新聞電子版に掲載された記事より、

大崎クルージェン

“瀬戸内海に浮かぶ面積約1km2の小さな島に、エネルギー業界の関係者が注目する場所がある。中国電力とJパワーが折半出資する大崎クルージェン(広島県大崎上島町)の石炭火力の試験発電所だ。ここで2019年12月から、発電の過程で排出されるCO2を回収する実験をしている。実現すれば従来の石炭火力発電に比べてCO2を9割削減できると言われ、2022年度までに実験を終わらせ、商用化のめどを立てる。”

“菅義偉首相が所信表明演説で「2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする」と宣言したことで、「カーボンニュートラル」が注目を浴びている。これは、生産活動などによる温室効果ガス排出量と森林などの吸収量を同じにし、差し引きで排出量をゼロにする考え方。2015年に採択された、地球温暖化対策に関する国際的な枠組みである「パリ協定」をきっかけに広まった。”

国際エネルギー機関(IEA)によると、2018年の世界のCO2排出量は約335億トン。2050年までにカーボンニュートラルを達成するには、2030年までに2010年比で約45%削減する必要がある。英国が2050年までに実質ゼロとすることを法律に盛り込むなど、欧州諸国は積極的な対策を採る。一方の日本は2011年の福島第1原発の事故を機に火力発電への依存度を高めるなど、世界の潮流に逆行していた。だが国際世論の高まりや、ESG投資の台頭は無視できない。今年9月には中国も「2060年にCO2排出量実質ゼロ」を宣言。日本も世界の潮流に乗り遅れまいと本腰を入れ始めた。”

“2050年までのカーボンニュートラル達成は容易ではない。日本のCO2排出量の約4割は発電所などに由来しており、再生可能エネルギーの普及は有効な一手とされる。政府は再生可能エネルギーを主力電源化する考えだが、再生可能エネルギーによる発電は2017年度で全体の8.1%にとどまる。発電量が天候に左右されやすく、発電所の建設に必要なまとまった土地に限りがあるといった課題も抱えており、どこまで普及するかは未知数だ。そこで注目されているのが、発電所や工場などから排出されるCO2を回収し、燃料や化学品などに再利用する「カーボンリサイクル」だ。

“資源エネルギー庁は2019年2月にカーボンリサイクル室を設置し、2019年度政府予算にはカーボンリサイクル予算として約350億円を計上した。資源エネルギー庁資源・燃料部石炭課によると「日本は世界の中でもカーボンリサイクル分野ではトップ集団にいる。今後5年くらいが勝負になる」と意気込む。”

“冒頭の石炭火力発電所はカーボンリサイクルの一大実験施設だ。他の発電技術も含め2017年から実証実験をしている。石炭火力には、原料の石炭を安価に安定的に調達できるというメリットがあるが、液化天然ガス(LNG)や石油に比べて環境負荷がかかる。大崎クルージェンの出資元である中国電力の電源構成は、石炭火力が3分の1を占める。カーボンリサイクルを取り入れることで、石炭火力の利点は残しながらCO2削減を図る。

“大崎クルージェンのカーボンリサイクルの仕組みはこうだ。まず、石炭に酸素を加えて熱すると、一酸化炭素(CO)と水素(H2)を主成分とするガスができる。このガスのうち17%を取り出し蒸気と反応させることで、CO2と水素を作る。ここに特殊な液体を加えることでCO2だけを吸収することが可能になる。実験ではガスに含まれるCO2の90%を回収できた。石炭を燃やした後の排煙からCO2を取り出す方法もあるが、ガスにして回収した方が効率が高まるという。”

CO2を回収する仕組み

“CO2を取り出して終わりではない。発電過程で大量のCO2を排出すれば本末転倒。そこで大崎クルージェンは同時に3つの方法で発電することで、少ない石炭でより多くの電力を生み出す実験をしている。まず、石炭をガスにして、ガスタービンを回して1回目の発電。燃焼後の排ガスの余熱で水を沸騰させ、蒸気タービンを回して2回目の発電。さらにCO2回収後に残った水素を燃料電池に用いて3回目の発電をする。ガスと蒸気の両方でタービンを回す発電と、燃料電池による発電はすでにある技術だが、組み合わせることでより効率的な発電を目指す。

課題の一つはコスト。ガス・蒸気タービンによる発電のみであれば、通常の蒸気タービンのみの石炭火力発電とコストは変わらないという。従来よりも設備費はかさむが、低品位の石炭が使えるためだ。だがまだ高価な燃料電池を加えるとその分だけコストがかさむ。仮にコストの問題が解消し、3つの発電とカーボンリサイクルを組み合わせることができれば、通常の石炭火力に比べてCO2排出量を9割程度削減することができる。

こうした発電所や工場などから回収したCO2を再利用する動きも広まっている。CO2は以前からドライアイスや炭酸飲料の製造に活用されてきたが、これらで消費できるCO2は全体のごく一部。企業は技術開発を進め、より幅広い用途にCO2を活用し始めた。

鹿島建設と化学メーカーのデンカは、CO2を原料としたコンクリートを開発した。コンクリートの原料であるセメントを製造する際には大量のCO2が排出される。CO2の削減は業界にとって長年の課題だった。デンカが持っていたCO2と反応させると固まる特殊な材料を、コンクリート原料の一部に使用することで、セメント使用量を通常の3分の1程度に削減できる。さらに、鹿島建設がもともと持っていた、コンクリートにCO2を吸収させて耐久性を高める技術を組み合わせ、製造工程で大量のCO2を吸わせることに成功した。一般的なコンクリートを製造する際は1m3当たり288㎏のCO2を排出する。それに対して開発品は吸収量が排出量を上回り、最終的に18㎏のCO2を吸収する。製造しても実質的にCO2は排出されず、環境負荷の低いコンクリートとなる。”

“課題もある。鉄筋を組み込んだコンクリートにCO2を吸収させるとさびてしまうため、鉄筋を使わない用途に限定される。道路脇に置かれる小さなブロックなどを主に製造するが、こうしたブロックは薄利多売。CO2を吸収するコンクリートは通常のコンクリートの3倍のコストが掛かっており、利益が出にくい状況だ。2011年に商用化したが、導入はなかなか進まなかった。今後は、鉄筋の入っている構造物にいかにCO2を吸わせるかを開発の焦点に定める。CO2を構造物の奥まで取り込むと鉄筋がさびてしまうため、途中で止めるといった方法を検討している。鉄筋コンクリートでもCO2が吸収できるようになれば、より用途が広がり顧客も増える可能性がある。”

旭化成が目指しているのは、CO2を原料としたポリウレタンの製造だ。伸縮性のある素材のポリウレタンは靴や鞄、塗料などの幅広い用途で使われる。だが、原料として一般的に使われるホスゲンは毒性がある上、生産設備の腐食を招きやすいという欠点があった。ホスゲンに代わる材料として目を付けたのがCO2だ。開発段階ではあるが、CO2から誘導される尿素を原料としたポリウレタン原料の製造に成功した。ホスゲン法よりも製造工程を効率化できるため省エネルギーで、毒性のあるホスゲンを使わないので環境負荷が小さい。ホスゲン法に比べて一連の過程でCO2を約2割削減できるという。2030年までに商用化を目指す。”

カーボンリサイクルをうまく回すには、水素の低価格化が不可欠といわれている。CO2の排出量を削減するには、燃料への再利用が必要であり、その際に水素も使うからだ。水素を普及させるには、現在の5分の1程度までコストを下げる必要があるとされている。水を電気分解して水素を作る際のエネルギーが化石由来では意味がなく、再生可能エネルギーで賄う必要がある。また、CO2の再利用品も廃棄の際などにCO2を排出するため、繰り返し回収しなければならない。カーボンニュートラル達成に向けては、幅広い分野の技術開発を同時に進めてゆくことが重要になる。

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