今アパレルビジネスに求められること

少し古いのですが、繊研新聞2016年11月に掲載された記事(アーカイブで見つけました)からです。色々な見方があるのだと思いますが、ここ30年程度で、国内アパレル企業のビジネススタイルがどのように変化してきたかの概要を知る参考になります。

“日本でアパレルメーカーなどのSPA(製造小売業)化が進んだのは、ワールドのスパーク構想(1992年)が起点になっている。それまで、経験や勘を頼りにしてきたため、作り過ぎれば在庫ロス、足りなければ販売機会ロスを起こしてきた。長い間、この課題はアパレルビジネスの宿命とされてきた。この二つのロスを削減し、収益を大幅に上げる道筋を開いたのがSPAだった。その基本はアキュレートレスポンスに基づく52週MDの確立にある。売れ筋が読めるシーズン初期商品はあらかじめ作り込み、実需期は店頭の売れ行きデータをベースにクイックレスポンスで生産する。これによって業界は初めて科学的手法=需要予測を組み入れた高粗利益率ビジネスモデルを手にした。”

“当初は百貨店市場を主力にブランド開発が進み、2000年頃からはSC(ショッピングセンター)時代に乗り、郊外市場も開拓していった。海外のSPAとは異なり、ターゲット、テイスト、立地に応じた超多ブランド政策を特徴とし、あらゆるマーケットにアプローチした。流れが変わったのは2008年のリーマンショックから。急速に価格志向が強まる中、海外のファストファッションが進出、低価格帯の市場を相当占めるまでになった。

“日本のSPAは中国が世界の工場になる流れにも乗っていた。低コストで使い勝手の良い生産地があることがビジネスの前提で、長く続いた円高にも恵まれた。郊外中心にモール型SCが次々作られるようになったのも追い風だった。”

“ところが、昨今(2016年頃)は中国での生産コスト増に円安が加わり、収益が悪化した。海外のファストファッション、国内でもジーユーなどに代表されるバリュー型の大型SPAが台頭し、従来からの日本型SPAは苦戦を強いられるようになった。生産コスト、競合ブランドの増加以外にも苦戦の理由はいくつかある。一つは2000年代前半までSPAがあまりに順調に機能したことによる過信があったのではないか。業界が手にした初めての科学的手法のため、あらゆるマーケットに通用するとして、進化が止まったのではないか。”

“海外勢などとの競合が強まる中、原価率を徹底して下げる策が優先されたことも影響している。OEM(相手先ブランドによる生産)企業に対し、一定以下の原価率でないと取引しないというスタイルが広がっていった。かつてはデザイナー、パタンナーを抱え企画を内製化していたブランドも、外部に任せる風潮が強まった。これが店舗は全国に合っても顔がはっきりしない、魅力的商品がないと消費者に映ったのではないか。消費者の変化もある。実質所得が減り続け、家計に占める衣料消費も回復しないままだ。ワーキングプアが1000万人規模となり、衣料は低価格のもので済ます層が増えた。選択的消費が強まり、たまらなく好きなブランドしか買わないという傾向も強まった。消費することの意味を考える層も増え、エシカル(倫理的)な消費につながっている。こうした変化にも既存の日本型SPAは遅れたようだ。情熱を持って、社会に貢献するする物作りをしているか、という点を消費者は敏感にかぎ分けている。

「デザイナーやパタンナーは不要」。こうした発言が、ある時期、アパレルメーカーの経営者から聞かれることが珍しくなかった。多くのアパレルがSPA化にかじを切り、かつて物作りの心臓部であったはずの機能がOEM企業へ「丸投げ」されていった頃だ。海外ファストファッションなどの大型SPAの台頭に象徴されるように、市場にはモノがあふれ、商品の同質化も進んだ。

“所得低下で急速に低価格志向が強まるなか、トレンド感のある売れ筋を廉価でタイムリーに供給する仕組みでは、H&Mやザラ、フォーエバー21など売上高が数千億~数兆円の大企業に優位性があった。こうした海外企業やユニクロ、しまむらなどで構成される「バリュー分野」の小売業の売り上げ規模は今(2016年頃)、日本の衣料消費市場の47%近い。彼らが台頭し始めた頃、日本のアパレルメーカーのSPA型ブランドは、オリジナリティーの追求よりはむしろ、商品価格を引き下げて対抗しようとする動きが顕著だった。しかし、体力勝負は続かなかった。そして、日本流SPA型の仕組みを活用する主役は、SCを主力販路とする専門店に移った。百貨店での販売を主力とするアパレルメーカーに比べ、商品仕入れ原価(百貨店マージンを含む)を低く抑えることができたからだ。小売価格に占める製造原価率が20%前後の商品と40~50%の商品では、「価値の差」が消費者の目にも明白だったと言える。”

“中~大規模の専門店にとっても、現在、SPA型の仕組みは万能とは言えない。過去のデータに基づいた前年踏襲型MDが通用しないからだ。ネットの普及で消費者の情報伝達のスピードは、もはや売手の思惑や仕掛けを超えている。需要予測に基づく52週MDと売れ筋の追加生産の積み重ねが「日本型」SPAの基本だ。消費の低迷と市場への供給過多が止まらず、この手法が消費者の目には、どこも同じことをしていると映るようになってしまった。”

“大手企業では、過去の成長を支えたSPAの仕組みを進化させようとしている。情報を店頭から生産へと段階的にフィードバックするのではなく、IT技術を活用し、物作りの各段階が情報を同時に把握することで商品が店頭に並ぶまでの時間を短縮し、天候やトレンドといった様々な変化に対応しようとしている。この流れは今後ファッション産業全体に広がってゆくだろう。ただ、仕組みの高度化の流れに乗るだけでは、規模で劣る企業は、ニーズに対応するスピードもコストも太刀打ちできない。しかし規模では劣る企業にもチャンスはある。客観的な材料を基に論理的な仕組みで臨むだけではニーズを満たせないのがファッションビジネスだ。主観や情緒的な感覚をうまく生かし、大手企業と違う形で消費者に響く価値を生み出すところに可能性がある。服を作り、売ることで、客に喜んでもらう。それを追求し続けた企業と、そうでなかった企業の間に、業績だけでなく消費者の認める価値という点で大きく差が開いたのが、この20年だったのかもしれない。過去に成功したことを繰り返すのではなく、日々変化する消費者の気持ちに寄り添い続けようとする努力が、次の成長につながるビジネスモデルを生み出す。

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