号外:核融合発電について
原子力には、原子核(陽子と中性子から構成されている)を分裂させる「核分裂」と、原子核を合体させる「核融合」があります。どちらもその過程で大きなエネルギーを発生させます。既存の原子力発電は核分裂を利用したものです。ウランの原子核に中性子を当てるとウラン原子は2つの原子核に分かれます。この時に大量の熱が発生するため、これを発電用熱源として利用しています(水を蒸気に変えて蒸気タービンを回転させ、発電機で電力を起こす)。核融合は太陽で起きている現象です。太陽は4分の3が水素からできています。太陽の中心では高い温度(1500万度)、高い密度(鉄の20倍)のなかで、水素が核融合反応を起こしてヘリウムとなり、大きなエネルギー(熱や光)を出しています。この核融合を発電に利用する開発が注目されています。
2022年2月10日付け日本経済新聞電子版に掲載された記事より、
”原子核同士を合体させてエネルギーを生み出す核融合発電の開発に注目が集まっている。欧州各国の研究機関で構成するユーロフュージョンは2月9日、英国の研究施設で行った核融合の実験で過去の記録の2倍となるエネルギー量の発生に成功したと発表した。核融合は安全性が現在の原子力発電より高いとされ、脱炭素への切り札として期待の声が高まる。日米も実証に向けた開発を続ける。一方で実用化までの期間が長いことやコストや廃棄物の問題もある。商用化までに課題は多い。”
”核融合は太陽と同じ核融合反応を地上で再現することから「地上の太陽」と呼ばれる。今回の実験に参加した英国原子力公社(UKAEA)のチャップマン最高経営責任者(CEO)は、気候変動対策に核融合は大きな可能性があると、実験の成果を強調した。実験は英オックスフォード近郊の核融合実験装置、欧州トーラス共同研究施設(JET)で実施した。成果は日米欧中印などが共同でフランス南部カダラッシュに建設中の国際熱核融合実験炉(ITER)計画でも活用する。ITER計画は各国が資金や技術、部品などを持ち寄って進める世界最大の核融合プロジェクトだ。”
”今回のユーロフュージョンの成果は、小さいながらも実際の融合炉を使って5秒間もの核融合を維持したことが成果だ。より大きな装置となるITERへ応用される。ITERのビゴ機構長も、開発者に大きな自信を与えたと賞賛した。核融合は超高温の重水素と三重水素(トリチウム)を閉じ込めて起こさせる。理論上は1グラムの燃料から石油8トン分という大きなエネルギーが得られる。さらに革新的と目されるのが安全性だ。現在の原子力発電は核分裂の連鎖反応を利用する。制御がうまくいかなければ東京電力福島第1原発事故のような大事故につながる。核融合は燃料不足になった場合などは核反応が止まる。原発などで採用される核分裂に比べて制御しやすいとされている。”
”課題は多い。まず実用化の時期だ。核融合発電の商用化は2050年代までずれ込むとの見方もある。地球温暖化問題の国際枠組みである「パリ協定」は地球の気温上昇を1.5度以内に抑えることを求めている。そのためには2050年時点で炭素排出実質ゼロを実現する必要があり、間に合わない。米国でもスタートアップが中心に開発に乗り出している。例えば米マサチューセッツ工科大学(MIT)発の新興企業、コモンウェルス・フュージョン・システムズは2021年12月、同分野としては最大規模となる18億ドル(約2000億円)の資金調達を発表。商用発電所を、2030年代初めに稼働させるという。しかし同社はまだ核融合の実験段階。実際に商用炉を稼働できるかは不透明だ。原子力技術は高速増殖炉「もんじゅ」のように実用化の時期が先延ばしや凍結になる例も多い。”
”コストの問題もある。ITERの建設費は既に人件費がかさむなどして総建設費が約2兆6千億円にまで上がっている。再生可能エネルギーや従来の原子力発電(軽水炉)などに対してコスト競争力がなければ普及拡大は望めない。日本でも国の量子科学技術開発機構(量子研)の茨城県内の施設で研究が進む。量子研の実験装置は核融合に必要なプラズマ状態を近く試験で再現する。2020年12月ごろに試験に入る予定だったが、新型コロナウイルス禍で遅れた。文部科学省は核融合に毎年、約220億円を出している。”
”高レベルではないが、核融合でも放射性廃棄物が出る点は通常の原発と変わりがない。世界では福島第1原発事故後、原子力技術へ懐疑的な見方が根強い。商用化までの期間やコストなど乗り越えるべき課題はなお多い。”