アパレルに値上げの波
原材料・素材価格の上昇、物流コストの高騰を受けて、アパレル業界に値上げの動きが広がっています。並行して、物流の見直し、一部生産の国内回帰、値引き販売の抑制といった自社の製造・販売体制を見直すことで、できるだけ値上げを抑えて利益を確保する努力も続けられています。このところの状況は、外部要因の激変に翻弄されている面もありますが、危機感を持って自社オペレーションの無駄を省き、効率を上げていくチャンスかもしれません。
2022年3月8日付け日本経済新聞電子版に掲載された記事より、
”アパレル業界に値上げの動きが広がっている。ファーストリテイリング傘下のユニクロは東南アジアなどで生産する一部の定番商品を値上げし、しまむらも2022年後半からの値上げを検討している。素材価格や物流コストの上昇で各社は価格の維持が難しくなっている。食品などで先行した値上げの波がアパレルにも及んできた。”
”ユニクロは2月までに細身に見えながら伸縮性の高い「スマートアンクルパンツ」を3990円、伸縮性やドライ性能に優れた「ウルトラストレッチアクティブジョガーパンツ」を2990円と、いずれも定価を従来より1000円引き上げた。新生児向けの「カバーオール」も990円から1500円とした。”
“衣料品に使うポリエステル長繊維の2021年12月のアジア価格は1キログラム1.45ドル程度と、前年同月比32%高い。ポリエステルの主原料、高純度テレフタル酸と副原料のモノエチレングリコールが昨年10月までの1年間で6~7割上昇している。ロシアのウクライナ侵攻に伴い、合繊の原材料となる原油価格も高騰している。日本時間3月7日にロンドン市場北海ブレンド原油先物は13年8か月ぶりの高値をつけた。柳井正会長兼社長は「企業を守る意味でも値上げせざるを得ない」と話す。「海上運賃も従来の5~10倍の水準だ。有史以来初めてだ」と足元の経済環境を見る。”
”ユニクロではシーズンごとに500ほどの商品が店頭に並び、足元で値上げに踏み切ったのは売れ筋を含む10品目程度にとどまる。背景にあるのは客離れへの懸念だ。原材料高や円安で2014年の秋冬商品は平均で5%、2015年秋冬も約2割の商品で価格を見直し、平均で10%値上げした結果、顧客離れが起こり2016年春夏に値下げを余儀なくされた。ファーストリテイリングの岡崎健最高財務責任者(CFO)は値上げについて「(商品の)価値を受け入れてもらえそうな商品に限る」と話す。国内ユニクロの既存店売上高が2月まで7か月連続で前年割れが続くなか、ユニクロは商品の売れ行きを慎重に見極めながら、ほかの商品の値上げの是非も検討していく。”
“しまむらは値上げせずに粗利益を確保できるのは「春夏商品まで」とみる。大型商品を中心に輸送コストが増加しており、2022年秋冬物から価格帯の引き上げを検討する。同時に定番商品は閑散期の早期発注を進めたり、寝具などは工程の一部を日本に移して輸送効率を高めたりしてコストを削減する。”
“新型コロナウイルス下での原材料高に伴う値上げは、食用油や製粉など売上高原価比率が7割超と相対的に高い食品メーカーで先行していた。全般的に素材の先高観は強く、原価率が5~6割の低価格アパレルも苦しくなっている。より高価格帯のアパレルでもユナイテッドアローズが主力ブランド「ユナイテッドアローズ」や「ビューティ&ユース」で、2022年の春夏シーズンから新商品の約3割の価格帯を10~20%引き上げる。綿やポリエステルなどの原材料費、主要生産国のアジア諸国の工賃や物流費の高騰を受けて見直しを迫られた。また新商品の値上げと合わせて、春夏物は品目数を例年と比べ2割ほど減らす。商品を絞り込み、値引き販売を抑えて収益を改善させる。各商品のクオリティーを高めつつ、見合う価格を見極めたいとしている。”
“ワールドやTSIホールディングスも値引き販売を極力抑えることで採算を改善するほか、海外コスト増への対応として国内への生産回帰も進めている。アパレルは季節ごとに使う素材やアイテムが異なり、多くの企業では春夏・秋冬と年2回に分けて商品を入れ替える。一般的に生産から販売までのリードタイムは約6か月かかる。アパレル各社でこの時期に値上げの動きが相次いでいるのは、春夏の新商品販売前の区切りのタイミングとなるためだ。”
“足元では原材料高はさらに進み、価格見直しの圧力は強まっている。一方で消費者は価格の変化に敏感になっており、納得感を得られる商品価値の訴求や、在庫を抑えて廃棄を生まないものづくりが求められる。”