号外:食糧最高値、新興国に打撃

長引くウクライナ危機に伴い、2月に引き続き3月の世界食糧価格指数は最高値を付けました。食料価格の高騰は、財政基盤が脆弱な新興国や途上国に対して、より厳しい影響を与えます。

世界の食料価格、2月過去最高に>の項を参照

2022年4月9日付け日本経済新聞電子版に掲載された記事より、

ウクライナ危機に伴う食糧高騰が新興国を揺さぶっている。穀物や植物油の高騰により3月の世界の食料価格指数は最高値を付けた。各国政府は国民の不満の高まりを警戒して支援策を打ち出すが、新型コロナウイルス感染症対策で悪化していた財政にはさらなる打撃となる。”

”「砂糖や粉ミルクなどの価格が上がり、状況は悪くなる一方だ。政府は適切なプランを持っていない」。スリランカ最大都市コロンボに住む30代の男性は憤る。抗議活動が頻発し「ゴタ(バヤ・ラジャパクサ大統領)は帰れ」といった主張を掲げる人々の姿も目立つ。”

たかまる不満の背景には、ロシアによるウクライナ侵攻を受けた世界的な商品価格上昇がある。国連食糧農業機関(FAO)が4月8日発表した3月の世界の食料価格指数(2014~16年=100)は159.3と前月比17.9ポイント上昇し、2ヶ月連続で過去最高値を記録した。小麦やトウモロコシの輸出大国であるウクライナは、収穫・出荷作業が侵攻の影響を受け、主たる輸出手段の海上輸送もロシア軍の黒海封鎖で妨げられている。米農務省は8日、ウクライナの年間小麦輸出量の見通しを1900万トンと、従来予想から100万トン引き下げた。米農務省は2021年~22年度の世界の小麦在庫が期末時点で5年ぶりの低水準になるとの見方も示した。インドが国内向け供給のため在庫を切り崩すとみる。低位の在庫水準や需給逼迫の見込みが穀物価格の先高観につながっている。

スリランカでは折からの財政危機に加え、物価高が追い打ちとなり、ラジャパクサ政権が機能不全に陥っている。経済の柱、観光業が新型コロナウイルス感染症の影響で長期間低迷し、3月末時点の外貨準備高は約19億ドル(約2400億円)と、1年前に比べて半減した。事態収拾に向け閣僚刷新が決まったが、5日には前日に財務相に任命されたばかりのアリ・サブリ氏が一時、辞任の意向を表明するなど混乱が続く。スリランカ中央銀行は8日、預金金利と貸出金利を7%ずつ引き上げて13.5%と14.5%とし、インフレ抑制のため金融引き締めに動いた。”

インドネシアのジョコ大統領は5日、物価上昇をめぐる関係閣僚会議を開き、対応を指示した。2月下旬以降、食用油や燃料の価格が高騰していることから、7日にジョコ氏が視察で訪れたスマトラ島の都市ジャンビでは、物価高に不満を持つ学生がデモを強行した。アイルランガ調整相(経済担当)は5日の会議後、物価高に苦しむ低所得者を対象とした現金支給策を発表した。月給350万ルピア(約3万円)以下の労働者880万人を対象に1人につき100万ルピアを支給する。ただ、現金支給はコロナ対策で悪化していた財政をさらに傷めかねない。インドネシア政府は2021年に4.65%だった財政赤字の国内総生産(GDP)比を2023年に従来の3%以内に戻す方針。財政への信認を高めるための目標を堅持するなら、追加の財政出動余力は限られる。”

”国軍が実験を握るミャンマーでは中銀が食用パーム油を調達するため2022年2月までに7900万ドルの外貨を放出した。国営紙が伝えた。国軍のクーデターへの市民の反感が収まらないなか、食品など生活必需品の価格上昇は抗議デモなどを再燃させる可能性があり、国軍は神経をとがらせる。”

”食糧高騰の影響はアジアにとどまらない。世界最大の小麦輸入国エジプトは3月下旬、政府補助金を受けていない一般向けパンの小売価格を1キログラム当たり11.5エジプトポンド(約78円)に定めた。違反者には罰金を科す。中東で最も多い1億人の人口の3割が貧困層とされる同国では、安価な主食の安定供給は歴代政権にとって最重要政策の一つだ。2011年の民主化運動「アラブの春」で当時のムバラク政権を倒した反政府デモの背景には、ロシアやウクライナが2010年に実施した穀物の輸出制限に伴う食料価格高騰への不満があった。”

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