綿花、11年ぶり高値圏 インドで輸出停止観測
新型コロナウイルス禍からの世界経済回復局面において、中国での感染再拡大によるロックダウンと製品製造の遅延、ロシアのウクライナ侵攻の影響による資源・原材料市況の高騰、食糧価格の高騰、また世界的な物流網の混乱など、現在の世界経済は様々な不安定要因を抱えています。ファッション・繊維産業にとって重要な素材のひとつである綿花の価格も上昇しており、さらに供給量が不足することが懸念されています。下記の表にもあるように、インドは世界最大の綿花生産国であり、世界第3位の綿花輸出国です。このインドからの綿花輸出が滞ることになると、世界市場が大きく混乱する可能性があります。また中国は世界第2位の綿花生産国で、その主産地は新疆・ウイグル自治区です。そこでの綿製品の製造において人権侵害の疑いがあるとして、世界の主要アパレル企業はその使用を控えています。中国とインドは単に綿花を生産しているだけではなく、中間製品であるテキスタイルや最終製品である衣料品の巨大な生産地でもあります。両国ともそれぞれに大きな国内マーケットを抱えているので、それ以外の国々の衣料品市場にどの程度の影響が及ぶのかは定かではありません。しかし世界全体として供給量が不足するのであれば、綿製品の価格は上昇することになります。衣料品は私たちの生活に身近な消費財ですから、その価格上昇は一般家庭の家計にも大きく影響することになります。
2022年5月9日付け日本経済新聞電子版に掲載された記事より、
”衣料品の原料となる綿花の国際価格が11年ぶりの高値圏にある。輸出シェア世界3位のインドが国内供給を優先して輸出停止や輸入拡大に乗り出すとの観測が広がり、国際的な需給逼迫懸念が高まった。最大輸出国の米国は干ばつで生産減少が見込まれる。高値は長期化する見通しで、日本のアパレルメーカーの原料コストの上昇圧力が強まりそうだ。”
”指標となるニューヨーク先物(期近)は4月下旬から騰勢を強め、5月上旬には一時約1ポンド155.95セントと1か月前に比べ1割ほど高くなった。昨年末からの上昇率は3割ほどに達し、2011年5月以来の高値圏で推移している。引き金になったのが、世界の輸出シェアの1割強を占めるインドが綿花の輸出を停止する可能性があると報じられたことだ。インドでは資源高に加えて国内の綿花生産も低迷し、衣料品の値上がりなどインフレが深刻。輸出が停止されれば、中国に輸出していた綿花が国内に振り向けられ、高騰を抑える効果があると見込む。その分、国際市場に出回る量が減るとの見方も強まった。”
”4月下旬にはインドネシアがインフレ抑制を目的に、揚げ油やマーガリンなどに使うパーム油の禁輸を発表し、国際価格も上昇した。同様の構図が綿花でも連想されたことが急騰の背後にあるとの指摘が多い。”
”インド政府は4月、綿花の輸入関税を9月末まで撤廃すると表明した。国内の供給不足を補うため、海外からの調達を増やすという観測が出ている。一方、新型コロナウイルス禍からの経済回復で世界の衣料品生産は持ち直しており、綿花の需要は堅調。世界の需給逼迫に拍車がかかっている。世界最大の綿花輸出国である米国では天候不順による不作懸念が強い。当局の「干ばつモニター」によると、5月3日時点で生産地のテキサス州の一部では深刻度が最も高い「異常な干ばつ」となっている。ウクライナ危機に伴う食料不足を受け、米国では綿花を減らし大豆の作付けを増やすとの観測も相場を押し上げている。”
”物流の人手不足で輸送が停滞していることもあり、在庫は低水準だ。通常、数万俵程度(1俵は約255kg)ある取引所の認証在庫は、5月上旬時点で1101俵とほぼ払底している。春からはブラジルなど南米産の綿花が出回るが、現地の天候不順や海運の逼迫もあって十分な量が市場に供給されていない。5月4日の米連邦公開市場委員会(FOMC)以降は利上げに伴う世界景気減速に対する警戒感などから値上がりが一服したが、急速な下落を見込む声は少ない。“
“綿花高の影響は日本にも広がりそうだ。国際価格の上昇に加え、急速な円安で国内の綿花仕入れ価格は高騰している。価格転嫁力の弱い日本のアパレルメーカーも今後は値上げに踏み切らざるをえないとの観測がなされている。”