号外:深刻さます食糧危機!

ウクライナ危機は多方面に影響を与えています。穀物価格が急騰していますが、エネルギーと肥料、穀物価格は連動性を強めていて、穀物の高値も長期化することが懸念されています。食糧価格の高騰は経済基盤が脆弱な新興国の人々の生活を直撃し、飢餓が拡大したり、政情が不安定になったりする恐れがあります。一刻も早く戦争を終わらせ平和と安定を取り戻すために、世界各国がしっかりと協力していくことが必要です。

2022年4月25日付け日本経済新聞に掲載された記事より、

ウクライナ危機は農産物の価格も高騰させた。米シカゴ市場の小麦先物は期近が3月に2008年の史上最高値を超え、国連食糧農業機関(FAO)が算出する食料価格指数も3月まで2ヶ月連続で過去最高を記録した。エネルギー価格の上昇と共鳴しながらインフレ圧力を強め、新興国を直撃する食料高は長期化するリスクがある。

ロシアと侵攻を受けたウクライナは有数の農産物輸出国だ。肥沃な「チェルノーゼム」(黒土)に恵まれ、両国の小麦輸出量は2020~2021年度に計約5600万トン(米農務省統計)と世界の28%。米国とカナダを合わせた輸出量を上回る。ウクライナは近年、トウモロコシの輸出量でも世界4位に浮上し、ヒマワリ油の輸出では圧倒的だ。FAOの食料価格指数を構成する5つの商品群の中でも植物油の上昇ペースは穀物を上回る。”

経済発展とともに農業でも2000年代に新興国が台頭。ウクライナが農業国として急成長した背後には中国の存在も大きい。中国は広域経済圏構想「一帯一路」の推進と食料輸入の多様化を狙いウクライナと2013年に協定を締結。中国の融資で農業インフラを整備した。

ウクライナが戦争で混乱し春まき小麦の作付けは予想すら難しい。ロシア産も制裁や物流の混乱、同国による輸出制限の影響を受ける。穀物は自国消費が多く、輸出に回る割合は小麦が世界生産の26%、コメは10%にすぎない。付随ガスを含む生産量のうち、石油製品と合わせて7割が輸出に回る原油などより「もろい市場」と言える。食料確保が危うくなれば国内向け供給を優先するようになり、今回も3月以降、穀物輸出を止める国が増えた。”

”FAOの指数で見て食糧危機は2008年、2011年、今回と今世紀に入り3度目。ブラジル、アルゼンチンといった南米産地が成長し、産地が分散した相場の安定効果が見えない。中国を中心にした新興国が台頭して需要が急拡大。頻発する異常気象も揺さぶる。今回は国際市場の有力2か国が戦争になる異例の事態だ。

”国際団体ローマ・クラブが「成長の限界」を警告してから半世紀。食料需要を賄えたのは、化学肥料の普及や農業技術の革新で単位面積あたりの収量(単収)を伸ばした効果が大きい。その化学肥料が今回は危機を深める要因となっている。ロシアと侵攻に協力したベラルーシは化学肥料の原料になるカリウムが豊富で、肥料輸出でも大きな存在だ。米調査機関のOECによると2019年の肥料の世界貿易(666億ドル=約8兆5千億円)のうち首位のロシアは輸出全体の13%、ベラルーシは5%を占める。

需要拡大や中国の囲い込みで昨年から肥料価格の上昇は加速し、農産物の増産コストを押し上げる。高値が生産拡大を促す市場メカニズムにブレーキがかかる可能性がある。エネルギーと肥料、穀物価格は連動性を強めており、穀物の高値も長期化するおそれがある。

”エネルギー高が穀物価格に波及する背景には、米国を中心にしたバイオエタノールの普及もある。米農務省の4月統計で同国の2021~2022年度のトウモロコシ消費のうち、エタノール向けは2019~2020年度に比べて11%増え、内需の43%を占める。輸出量の2倍強の規模だ。バイデン政権が4月12日にエタノールを15%混ぜたガソリンの利用を拡大する方針を発表すると、天候不安もありシカゴ市場のトウモロコシ先物の期近はおよそ10年振りの高値に上昇した。”

”トウモロコシ価格が急騰すれば限られた農地の奪い合いが起き、高値は連鎖する。原油高でバイオ燃料の利用が進んだ2008年までの局面では「先進国は食糧危機を深刻化し、途上国の飢餓を増やすのか」との批判も出た。食料価格の上昇は新興国の情勢を不安定にし、資源国を巻き込めば中東・北アフリカで民主化運動「アラブの春」が広がった局面のように原油などの新たな高騰要因を生む。中東や南米でその気配は強まっている。”

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