号外:カネコ小兵、美濃焼の食器皿輸出

かつて「とっくり」の生産量で日本一を誇った美濃焼の老舗窯元が、食器皿の海外売り上げを伸ばしているという話題です。長い年月培ってきた日本の美意識が、海外の高級ブランドにも評価されています。世界の舞台で評価される日本の伝統工芸はまだまだあるのではないでしょうか。優れた工芸品が、小規模なために技術・伝統の継承がむずかしく、新しい可能性に気が付く前に消えてゆくとしたら、とても残念なことだと思います。

2022年5月10日付け日本経済新聞電子版に掲載された記事より、

”国内の代表的な陶磁器である美濃焼の窯元、カネコ小兵製陶所(岐阜県土岐市)が食器皿の海外売り上げを伸ばしている。高級ブランドの仏クリスチャン・ディオールの本店で販売され、海外セレブの愛用品として紹介されたこともある。かつて「とっくり」の生産量で日本一を誇った老舗が華麗な転身を遂げている。

”「ディオールのバイヤーが『欲しい』と言ってきた」。2010年、取引商社から届いた知らせに伊藤克紀社長は耳を疑った。ドイツの見本市に出展した自社ブランドの食器皿「ぎやまん陶」が目に留まり、パリの本店で販売がスタートした。「商品がフランスで売られる、とは考えられなかった」と振り返る。”

カネコ小兵の「ぎやまん陶」

”もともとはOEM(相手先ブランドによる供給)によるとっくり生産が主力事業だった。1970年代には国内最多の年間約160万本を生産した。だが、消費者の好みが日本酒からビールや焼酎などに多様化するにつれ、とっくりの生産量は激減した。打開策として2001年に食器などの海外展開を始めたが、成果は出なかった。「OEMの会社で高級品を出すというイメージは持てなかった」と伊藤社長。当時は自らがはめた「汎用品の会社」という枠を抜け出せず、脈々と培ってきた美濃焼の可能性に気付いていなかった。

転機となったのが、2008年に発売したぎやまん陶だ。失敗を重ねながら2年半をかけて編み出したうわぐすりを用い、ガラスのような透明感と漆器のような風合いを両立させた。中央から放射線状に伸びるデザインも特徴で、国内外で価値が認められた。ディオールに続き、2012年には高級シャンパンブランド「ドン・ペリニオン」が仏ベルサイユ宮殿で主催した晩餐会のデザート皿に採用された。2018年からは土物の雰囲気を出した「リンカ」シリーズが米ニューヨークの有名インテリア店に並んでいる。”

”ディオールとの取引で伊藤社長が痛感したのは「日本人の美意識で決めた色や輝き、デザインが受け入れられた」ことだ。逆に、フランス文化に迎合する形でサンプル品をつくり、提案したカフェオレボウルは見向きもされなかった。「国内で市場縮小が進むなかで、価値をどう上げていくか」を突き詰めた先に活路が開けた。自社ブランドの食器皿は欧米を中心に10ヶ国へ輸出し、2021年8月期の海外売上高比率は直接販売だけで17%だ。当面の目標としては20%を据える。直接販売は取引先の流通手段に左右される面があり、取りこぼしも多いという。世界を舞台にブランドを築くためには、いかに販路を広げていくかがカギになる。”

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