衣料品も脱炭素、スタートアップが新素材

衣料品の脱炭素を考えるときには、素材や原料をどのように調達するかが極めて重要です。その上で、生地や縫製品の製造工程や物流におけるCO2排出量の削減を上乗せしていかねばなりません。日本や世界で、衣料品の脱炭素に向けた素材開発が進んでいます。

Spiber、たんぱく糸で量産開始>、

CO2から繊維を製造へ、米ランザテックとルルレモンのカーボンリサイクル

の項を参照。

2022年9月4日付け日経産業新聞電子版に掲載された記事より、

“衣料品で脱炭素の取り組みが動き出した。日本や欧米のスタートアップなどが家畜や石油の代わりに木材や合成たんぱく質から作る繊維の量産を本格化させる。世界の温暖化ガス排出量のうち4%(約20億トン)が衣料品由来とされており、従来の素材からの置き換えが進めば衣料品からの排出量を数十分の1に抑えられる可能性がある。生産コストの低減やブランド価値の確立が普及へのカギとなる。”

衣料品は原料の製造や縫製段階でCO2が多く出る。最も排出量が多いのが家畜の飼育でメタンが出る動物性繊維で作った衣服だ。1着作るとCO2の排出量は、綿のワンピースが約8キログラム、ポリエステルのブラウスは約2キログラムなのに対して、羊毛製のスーツでは約32キログラムにもなる。”

ゴールドウィンのスパイバーを使用した製品

環境負荷の大きい動物性繊維から新素材への置き換えに取り組むのが、慶應義塾大学発のスパイバー(山形県鶴岡市)だ。2022年春に微生物が作るたんぱく質の繊維原料をタイで量産開始した。今後数年かけて年間数百トンに増産する。さらに2023年にも米国で工場を稼働し、数年かけて年間数千トンに増産する。特に狙うのが繊維が細くて柔らかく保温性が高いカシミヤや、なめらかで光沢がある絹の代替だ。人工知能(AI)で設計した遺伝子を導入した微生物を高い密度で育て、生産量を高めた。繊維はカシミヤよりも細くて保温性があり、手触りもなめらかで絹のような光沢を持つ。スパイバーの担当者は「すでに国内外アパレル企業から動物性素材の代替にしたいという引き合いが来ている」と手ごたえを感じている。”

スパイバーの微生物たんぱく質の繊維

新素材の製造時に排出される温暖化ガスの量について、関山和秀・代表執行役は「再生可能エネルギーをフルに使うなどすればカシミヤの6分の1まで減らせる。将来的には数十分の1になる」と話す。ゴールドウィンはこの繊維を使うジャケットやデニムを2022年秋以降に発売する。スパイバーは100件超の特許を国内外で取得し、新株発行などで約1千億円の資金を調達しており、普及に向けて事業の拡大につなげる。”

“米コンサルティング大手のマッキンゼー&カンパニーによると、世界の温暖化ガス排出量(約500億トン)のうち、衣料品に関連する温暖化ガス排出量は2018年に約21億トンで世界全体の4%だ。ほかの分野と比べて脱炭素の取り組みが遅れており、気温の上昇を産業革命前から1.5度に抑えるパリ協定の目標達成には、衣料品分野の排出量を2030年に2018年と比べて半減の11億トンにする必要がある。

フィンランドのスタートアップ、スピンノバは綿から置き換える新素材開発に取り組む。製紙などに使う安全な化合物をパルプに加え、主成分のセルロースをゲル状にして、ノズルから押し出して繊維を作る技術を開発した。綿花の栽培時に温暖化ガスを生む肥料の使用を控える必要があるが、効率性を重視した大量生産が優先されて対策が進んでいないのが現状だ。新素材は肥料由来のCO2や一酸化二窒素(N2O)が出る綿糸に比べて、温暖化ガスの排出量を65%抑えられる。

スピンノバの繊維を使ったアディダスの
アウトドア・パーカー

繊維は綿のように丈夫で保温性が高い。手触りが綿や麻に近いため、アパレルや履物、不織布に適している。通気性や吸水性も高く、綿を代替できる。2022年末までに、木材から環境負荷を抑えて繊維を作る工場を稼働する。2031年までに生産を年100万トンに増やす計画だ。すでに独アディダスが7月、この新繊維と綿を混ぜた糸で作ったパーカーを発売している。スウェーデンのヘネス・アンド・マウリッツ(H&M)もスピンノバの繊維を使い、普段着やアウトドア用の服を作る。既存の木質繊維のレーヨンは有害な化合物を使っており、水質汚染の懸念があった。

日本化学繊維協会によると、2019年の主要な繊維の世界生産量は約1億360万トンで、2010年から34%増えた。7割弱の約6952万トンが合成繊維で、ポリエステルが最多の約5700万トンだ。綿や羊毛などの天然繊維は農地や用水が不足しており、今後も生産量の増加が見込まれる合成繊維でも、脱炭素の動きが起きている。

燃料開発の米スタートアップ、ランザテックは石油から作るポリエステルを置き換える。工場や製鉄所が出すCO2や一酸化炭素(CO)を、微生物がエタノールに変換する施設を建設した。インド企業などとエタノールからポリエステルを作る技術も開発した。石油から作るテレフタル酸と混ぜて使い、温暖化ガスを20%減らせる。スポーツ衣料のルルレモンとポリエステルの糸や布地、ZARA(ザラ)とはドレスを作ると明らかにしている。”

東レは2020年代に、植物由来の成分だけで作ったポリエステルの量産を始める。スタートアップなどから2種類の原料を購入し、これまで難しかったテレフタル酸の効率的な生産にめどを付けた。原料を作る植物が生育中にCO2を吸収するため、石油由来のポリエステルと比べて温暖化ガスを最大で約半分に減らせる。

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