号外:能登避難所に新しい畳1100枚
わが家にも畳の部屋がありますが、日頃の生活は椅子とテーブルが主体で、畳の上に座るということはあまりありません。畳の表面が傷まないように、畳の上にカーペットを敷いたりもしています。しかし考えてみれば、畳は日本の気候や生活様式に合わせた非常によくできた床材なのですね。元旦に発生した能登半島地震の避難所に、新しい畳を届けるという被災地支援プロジェクトの話題です。とても素晴らしい活動だと思います。
2024年2月15日付け日本経済新聞電子版に掲載された記事より、
“能登半島地震の被災者が暮らす石川県の避難所に、全国の畳店などでつくる支援プロジェクトから新品の畳1000枚以上が届けられた。冬の避難所は硬い床から寒さが直接伝わり、足音も響く。畳を届けた関係者は「畳の上での生活で少しでもストレスを軽減してもらえたら」と語る。石川県七尾市の市立山王小学校の体育館。避難生活を送る女性(78)は床に敷き詰められた畳を眺め、「床からの振動を感じにくくなった。ありがたい」と語る。1月1日の地震で転倒して腰を負傷。避難直後に過ごした同小の会議室では、床の上に直接布団を敷いており、室内で人が動くたびに腰が痛んだという。”
“畳を届けたのは、全国各地の約500の畳店が参加する被災地支援プロジェクト「5日で5000枚の約束」。災害時に避難所で使う畳を無償で提供する取り組みだ。参加する畳店は無償で提供できる畳の枚数を「約束」として申告する。全国分を積み上げた枚数は5000枚を上回る計6100枚。災害発生後、要望を集約して畳を製作し、5日以内に届けることを目標にしている。プロジェクト実行委員会の近畿地区委員長、関西畳工業(京都府城陽市)の武内秀介社長によると、今回の地震では七尾市などで畳店を営むメンバーと連絡を取り、被災者の迷惑にならないタイミングを協議。1月上旬~下旬に七尾市、志賀町などの避難所を訪ね、各所で必要な畳の枚数を調べたうえで計1100枚を順次届けた。”
“畳は作り置きせず、要請を受けてから製作しており、今回は被災地に近い富山、福井、岐阜、新潟、滋賀、京都、愛知、長野、山梨の9府県の畳店が製作を担当した。畳は天然イ草の畳表に軽い材質の芯材を合わせたもので、寸法などの規格もプロジェクトで統一。「江戸間」と呼ばれる縦1760ミリ、横880ミリ、厚さは通常より薄い35~37ミリとし、運びやすく、敷き詰めやすいように工夫している。”
“避難所では当初、土足で歩く床の上に新聞紙や段ボールを広げ、上に毛布を敷いて過ごす人が多かったが、畳みの搬入で「寒さが和らいだ」「足音で床がきしまなくなった」と環境が改善。「イ草の香りにほっとする」「必ず靴を脱ぐので衛生的」などの声もあった。北九州市立大学の森田洋教授(生物生態工学)によると、畳表に用いるイ草の茎の芯はスポンジ状の構造で「断熱効果や湿度を調整する機能、優れた弾力性、吸音性があるという。抗菌作用や香り・色のリラックス効果もあり、「人があつまる避難所で生活音や臭いを軽減し、落ち着いて暮らすための一つの安心材料になる」と話す。”
“山王小では1月下旬の学校再開に伴い、教室にいた避難者も体育館に移動。体育館には300枚以上に畳が敷き詰められ、その上に段ボール製の簡易住居が並ぶ。暖房器具の前の畳敷きの休憩スペースでは、脚を崩して談笑したり、新聞を読んだりする姿があった。国は避難所の生活環境に関する指針で、畳みや簡易ベッド、冷暖房機器、仮設風呂などを必要に応じて設置することを自治体に求めている。武内さんは「避難所の冷たい床で長い間過ごすのはつらい。せめて畳があればという声に応え、少しでもストレスの軽減に貢献したい」と話している。”
<熊本地震では6000枚、平時から訓練参加>
プロジェクトが始まったのは約10年前。阪神大震災を経験した前田畳製作所(神戸市)の前田敏康社長が、2011年の東日本大震災の避難所で過ごした被災者の声に心を痛め、全国の畳店や畳関連の企業に協力を呼びかけたのがきっかけだ。2016年の熊本地震では6000枚以上の畳を避難所に運んだ。2017年の九州北部豪雨、2018年の西日本豪雨、2019年の台風19号など毎年のように発生する災害に対し、畳みの支援を続けている。災害発生時に円滑に被災地で活動できるように、全国180以上の自治体と防災協定を結び、平時から防災訓練などに参加して関係を深めている。今回の地震が起きた能登半島の自治体では、七尾市、志賀町、輪島市と協定を結んでいた。