号外:生分解性プラスティックの課題

2019年4月、三菱総合研究所レポートより。

①廃棄プラスティックの概況

1950年時点で世界のプラスティック生産量は200万トン(化学繊維含む)でしたが、2015年には3億8000万トンに達しました。1950年から2015年までのプラスティック総生産量は78億トン、製造で必要となる添加剤を含めると83億トンになります。83億トンのプラスティックのうち、現在も製品として使用されているのは25億トンで、58億トンは使用済みです。使用済みプラスティックのうち、埋め立てなどで廃棄されたものが46億トン(79%)、焼却されたものが7億トン(12%)、リサイクルされたものは残りの5億トン(9%)です。

②廃棄プラスティックの回収と処理

日本では行政による廃棄プラスティックの回収が進み、基本的に全てのプラスティックが回収され、焼却、埋め立て処理も適切に管理されています。しかし日本でも河川などからマイクロプラスティックが検出されているのが現状です。ましてや、廃棄プラスティックが野ざらし状態となっていて、埋め立てなどの管理が不十分である中国や東南アジアなどの国々では、多くのマイクロプラスティックが海洋に流出していると想定されます。2010年には、世界で480万~1270万トンのプラスティックが海洋に流出したと推定されています(諸説あり、800~900万トン/年とも言われています)。プラスティックの回収体制が不十分な国々に対しては、先ず日本が構築した行政による回収、処理システムを広げてゆく取り組みが求められます。

③マイクロプラスティック問題

一般的に使用されているプラスティックは生分解性が低いため、人間が焼却処分しない限りは分解されずに自然環境中に残存します。プラスティックは人類が生成した化合物であり、分解できる微生物は自然環境中に存在しません。プラスティックは水や紫外線により細かく粉砕されますが、自然環境では分解されずに微細化だけが進行し、回収が困難になってしまうことがマイクロプラスティック問題のポイントです。目視で認識できないほど微細なマイクロプラスティックが魚や貝類の体内に摂取・蓄積されることにより、生態系や人体に悪影響を及ぼすことが懸念されています。これは持続可能性(サステイナビリティ)に対する大きな脅威です。

④生分解性を必要とする用途

マイクロプラスティック問題を解決するために、土壌環境や水環境などの自然環境で生分解されるプラスティックの研究開発が注目されています。全てのプラスティックを生分解性プラスティックに置き換える必要はありません。生分解性プラスティックへの置き換えを優先的に進めなければならないのは、非耐久財で使用後に回収できない用途です。例えば、釣り糸や漁網などは自然環境への流出が見られるので、生分解性プラスティックへ置き換えることが期待されます。一方で耐久財に関しては、プラスティックが分解されることは望ましくないため、従来のプラスティックを引き続き用いることになります。PCや家電製品などの現在回収できているものについては、引き続き適切な回収・処理(リサイクル、焼却、埋め立て)を進めてゆくことになります。

⑤生分解性プラスティックに求められる機能

プラスティックは加工の容易性と物性の安定性が高いために普及してきました。プラスティックの「生分解性を高める」ということは、裏を返せば「物性の安定性を落とす」ことにつながります。プラスティックが普及した一因である「物性の安定性」は「生分解性」とトレードオフの関係にあります。したがって、生分解性プラスティックの開発においては、使われる用途を想定して、「物性」と「生分解性(分解環境とスピード)」の適切なバランスを考えなければなりません。いくら生分解性に優れていても実使用に耐えられない物性(製品)では使い道がありません。また生分解性能(スピード)は分解環境によって大きく左右されます。堆肥環境で分解させるのか、土壌環境あるいは海洋環境で分解させるのかを考慮して生分解性をデザインする必要があります。

生分解性プラスティックとバイオマスプラスティック

⑥「生分解性プラスティック」と「バイオマスプラスティック」

バイオマスプラスティックは、再生可能なバイオマス資源を原料とし、化学的または生物学的に合成されたプラスティックです。これは原料による区分であり、バイオマスプラスティックが必ずしも生分解性プラスティックということではありません(生分解しないものもある)。同様に、使用後は自然界に存在する微生物の働きで最終的に水とCO2にまで完全分解されるものが生分解性プラスティックです。これは生分解という機能による区分で、化石原料から合成されるものもあります。最終的には有限資源である化石原料由来ではなく、バイオマス(植物、細胞、微生物、カーボンニュートラル)由来の生分解性プラスティックが開発され、用途展開されることが期待されています。

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