号外:働けないのは温暖化のせい!
今の日本は冬のさなかですが、昨年の夏の暑さは記憶に新しいところです。温暖化の影響で世界では働きたくても働けない人が増えているという話題です。特に屋外作業が多い農業では、食料生産への影響が懸念されています。労働時間が減れば、その対価である収入も減ります。これまで発展を続けてきた人類の行動様式そのものが、変化を余儀なくされています。アメリカではトランプ大統領が就任し、パリ協定からの離脱を宣言しています。しかし「暑さ」による影響はアメリカの労働者も避けることができません。ただ暑くて不快であるというだけではありません。世界中で多くの人々の健康が脅かされています。
2024年12月9日付け日本経済新聞電子版に掲載された記事より、
“働きたくても働けない人が世界で急増している。原因のひとつは温暖化だ。あまりにも暑すぎて、2023年は世界で5000億時間超、日本で約22億時間の労働機会が失われたという。国際医学誌ランセットなどのグループは、1990年代の平均から49%増え、過去最高を更新したと見積もる。気候変動はもはや暑さの問題を超え、人類の生き方そのものに影響を及ぼしている。アゼルバイジャン・バクーで11月に開いた第29回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP29)の席上、国連のグテレス事務総長は「今年は人類の耐久力の限界を超えるような気温で、世界が焼け野原となった」と語った。”
“これまで旺盛な活動を通じて繫栄してきた人類の行動を猛暑が妨げる。影響の大きいアジアやアフリカなどでは命を奪うだけでなく、国の労働力に影を落とす。「働く時間がみるみる制限されている」。世界保健機構(WHO)など57機関、計122人の専門家が加わる同グループの報告書はこう記す。途上国では国内総生産(GDP)の7.6%分の労働力を1年で失ったと分析した。”
“暑さは世界の職場をどのようにむしばんでいるのか。報告書は、これまで「暑さぐらいで仕事を休むなんて」と軽く思っていた人々が驚くような実態を浮き彫りにした。分析は、農業と建設業、製造業、サービス業などの4つの分野を対象とした。暑さによる影響が最も大きいのは農業従事者で、失われた労働量は全体の約6割にあたる3230億時間に及んだ。農業の現場では農薬から皮膚を守り、虫よけのため防護服や長袖の衣服、帽子などを着用して作業をする。夏場は暑さの影響を避けるため、昼を避けて作業をするケースが増えている。ただ、気温が上昇する時間帯を避けて労働した場合、農作業に十分な時間を確保するのは難しい。暑さで作物の収穫量が減るうえに、農作業ができない状況が気候変動下の食糧不足の懸念に追い打ちをかける。”
“農業と同様に屋外の肉体労働が不可欠な建設業が2位につけ、964億時間分を失った。先進国では小さな扇風機付きの作業服などで対応も可能だが、世界中で対応をするのは困難だ。屋外でなくとも、暑さの影響は避けられない。551億時間分の労働が奪われたのがサービス業で、代表例は外食産業だ。コンロ、鉄板、オーブン、フライヤー。店内で冷房を効かせても、働き場所となる調理場には熱源が無限に潜む。完全に対策を取るのは難しい。アイロンを使うクリーニング業や、屋内でも引っ越しなどで重い物を持つ運送業など、リスクが潜む業種は多い。また、製造業でも378億時間の損失が出た。直射日光が当たらない屋根がある工場の中でも、暑さが屋内をむしばむ。温暖化による暑さが影響を与える範囲は、屋内と屋外を問わない状況になっている。世界でも気温が特に高いアジアやアフリカは暑さが厳しく、農業従事者の割合も高いため農業への影響が目立つ。”
“日本では農業以外の広い範囲にも影響が及ぶ。業種別で最も影響が大きいのは約7.8億時間を損失した建設業だった。次にサービス業の約6.7億時間だ。製造業が3位で農業は最も労働の喪失時間が少なかった。暑さによって日本の建設業への従事者は全体の35%分の労働時間、本来得られるはずだった約4割の収入を失ったと報告書は試算する。サービス業など他の業種も含めて日本全体で潜在的に得られる約375億ドル(約5.6兆円)分の収入を喪失していると指摘した。世界全体で暑さにより失われる収入は、2023年の1年間で約8350億ドル(約125兆円)に及ぶという。途上国ではGDPの約7.6%、先進国では最大約1%の損失が出ていると報告書は分析する。”
“報告書から読み取れるのは、これまで通りの働き方が通用しない世界が広がっている実態だ。農業と建設業、製造業、サービス業などで当たり前だった働き方が、今後は不可能になるか、大幅な見直しを迫られる。労働時間が減れば、対価となる収入も下がる。労働時間を増やそうと思えば、熱中症のリスクなどに向き合う覚悟が要る。COP29では暑さに対する警戒情報を世界中に行き渡らせる必要性が議論された。日本は環境省などが警戒を呼び掛ける「熱中症警戒アラート」があるものの、途上国は十分に使われていない。「不可欠なインフラにしなければならない」とグテレス事務総長は強調する。誰がどのように普及させるかといった議論は途上だ。人類は、気候変動をどう防ぐかではなく、ただちに行動を起こしていかに備えるかの局面を迎えている。”