号外:幸せに暮らす飲食店経営、佰食屋(ひゃくしょくや)
「食」に関する話題です。感染症の影響で飲食業界は大打撃を受けています。その一方で、この記事で紹介されているようなお店もあります。すっきりと割り切れば、このようなやり方もできるし、この方が幸せで、サステイナブルなのかもしれません。私も一度お邪魔してみたいと思います。(売り切れになる前に・・・)
2020年9月13日付け日本経済新聞電子版に掲載された記事より、
“8月の平日11時過ぎ、ステーキ丼専門店「佰食屋(ひゃくしょくや)」(京都市)店頭に看板が掲げられた。店名が示す通り、1日100食限定の飲食店。開店は午前11時だが、整理券を配り始める朝9時半には行列ができる。ほぼ毎日昼前にはその日の分の整理券を配り終える。”
“「せっかく来ていただいたのに申し訳ありません。またのお越しをお待ちしております。」経営者は完売を知らずに来店した客に深々と頭を下げる。100食限定は2012年の開店から貫くポリシーだ。メニューは看板商品のステーキ丼とハンバーグ定食、おろしポン酢ステーキ定食の3品だけ。価格は1,000~1,100円、1日の売り上げは10万円強だ。社員の給料や家賃、原材料費などを差し引いても利益が残る。「お金は必要以上にいらない。売り上げを伸ばそうとするから働き方に無理が出て、家族との時間がなくなる」と言う。”
“メニューが少ないので仕込みにも時間もかからない。最後の客を見送った後、片付けや翌日の準備をゆっくり済ませても、社員全員が午後5時台に帰る。長時間労働が常態化しているといわれる飲食業界にあって、佰食屋は残業ゼロだ。社員にもやさしい先進的な働き方が評価され、国の表彰も受けた。コロナ禍で飲食業は客足が途絶え、大打撃を受けた。佰食屋も例外ではない。3月まで京都市内で4店舗営業していたが、4月に2店舗閉めた。インバウンド需要を見越して繁華街に出した店だった。ただ残る2店舗はコロナ禍でも100食完売が続いた。阪急線沿線の市街地に立地し、地元客が多かった。テークアウト専門に切り替えても、客は連日来た。今期決算も黒字を維持。「売り上げを追わないビジネスモデルはやっぱり間違えていなかった」と自信を深めた。”
“起業するときの戦略、それが食数限定だ。売り上げを増やそうとするから営業時間は長くなり、顧客の要望に応えるためにメニュー数も増える。すると仕込みに要する時間は長くなり、閉店後や開店前も働かざるを得ず残業が増える。飲食店の従来のビジネスモデルは負のスパイラルに陥っているように見えた。”
“「そもそも生活にどのくらいの収入が必要かを考えてみたのです。豪邸はいらない。高級外車にも興味はない。たまに外食でぜいたくして、年に2回海外旅行にいければ十分」。世帯収入が500万円あれば希望はかなう。ならば500万円稼ぐには1日にどのくらい売り上げがあれば良いか。身の丈に合わせて逆算した数字が1日100食だった。”
“ゴールが決まれば攻略もしやすい。毎日完売するにはどうすればよいか? 何度も食べたくなる味でなければならない。通常飲食店の原価率(定価に占める原材料費)は3割程度といわれるが、佰食屋は5割に上る。同価格の競合店より高品質の国産牛を使うから、顧客の満足度も上がる。食数限定なら一品一品の仕込みにも十分な時間をかけられる。肉の下処理に4時間かけ、ステーキ丼のワインソースはゼロから手作りだ。原価率が高い分、広告・宣伝費は一切かけないと決めた。「SNS時代の昨今、個人の口コミが集客には有効。コストパフォーマンスが高く、おいしい料理を提供していればお客さんは必ず付く」。目算は見事にあたった。”
“「夜も営業すればもっと稼げる。もったいない」。これまで数え切れないほど助言された。でも信念は曲げない。午後6時には帰宅し、家族4人でのんびり過ごす時間は手放せない。それに100食限定には想定外の副次効果もあった。完全売り切りなので食品ロスがなく、地球環境にやさしい。残業ゼロの職場で働きたいと求職者も後を絶たない。人手不足とも無縁だ。”
自分が求める生活水準を見極め、それを手に入れるために必要なだけ稼ぐ。それ以外の時間は、自分や家族のためにのんびり使う。かなり割り切った考え方ですが、幸せの基準は人それぞれです。ひたすら頑張って規模や売上を追いかけることが、必ずしも正しいことでも、幸せなことでもないでしょう。一度立ち止まってみて、自分が本当に希望している生活について考えることも必要なのかもしれません。