号外:脱炭素が迫る産業革新

政府は2030年度時点の温暖化ガス排出削減目標を引き上げました(2013年度比46%減)。この新たな目標を達成するためには、さまざまな産業分野での構造転換が必要です。新しい目標は、既存技術の延長線上で達成可能と思われるレベルを積み上げたものではありません。限られた時間のなかで大幅な技術革新を成し遂げなければ、この目標を達成することはできません。

2021年4月23日付け日本経済新聞電子版に掲載された記事より、

国内部門別CO2排出量推移

最大の課題が発電所の低炭素化だ。2019年度の日本全体のCO2排出量のうち、発電所を中心とするエネルギー部門は約4割を占めた。発電量の7割以上が火力発電で、風力や太陽光など再生可能エネルギーは18%、再生可能エネルギーと同様にCO2を排出しない原子力は6%にとどまる。欧州では再生可能エネルギーと原子力の合計で5割を上回る国が珍しくなく、日本の出遅れは明らかだ。”

“日本政府も現行のエネルギー基本計画で、再生可能エネルギーと原子力の構成比を2030年時点で42~46%まで増やすとの目標を掲げている。ただ、自然エネルギー財団の試算では、この計画を達成できてもエネルギー由来のCO2の削減率は2013年度比22%にとどまる。再生可能エネルギーの構成比を45%まで増やし、石炭火力発電をゼロにしてようやく47%減らせるという。”

“現実には現行目標でさえ達成がおぼつかない。原発の再稼働は足踏み状態が続く。燃焼時にCO2を出さない水素やアンモニアを火力発電に使う手法は既存の設備を生かせるケースもあり期待を集めるが、短期では大きな貢献は見込みにくい。発電所由来の排出量が減れば電気自動車(EV)の普及も効果を発揮する。EVは走行時にCO2を出さないが、現状では動力となる電力を作る際に大量に排出している。”

2019年度国内産業部門別CO2排出量

“2020年度のEV販売実績は1.4万台だった。国内の新車販売の1%にも満たない。政府は補助金に支給などを通じ、2035年までに新車販売をすべてEVやハイブリッド車(HV)などの電動車にする計画を掲げる。ただ、国内の自動車保有台数は約7800万台に上る。年間新車販売は500万台程度のため、仮に半分がEVや燃料電池車などのゼロエミッション車になっても、すべて入れ替わるには30年はかかると言われている。トヨタはHVの普及拡大を「現実解」と位置付ける。新技術にも取り組んでおり、その一つがCO2と水素を合成して作る新たな燃料「イーフューエル」だ。CO2を原料にするため、ガソリンに混ぜて使うとHV並みの環境性能になるという。実用化の時期やコストが鍵になる。”

国内主要企業のCO2排出削減目標

製造業でCO2を最も多く排出する鉄鋼業にも、新たな削減目標は重くのしかかる。日本製鉄は生産プロセスの改善などで2030年の排出量を2013年度比30%減らす計画だ。JFEホールディングスも鉄鋼事業の排出量を同期間に20%以上減らすと打ち出しているが、いずれもさらなる対応が求められる。製造過程でCO2を多く排出するコークスの代わりに水素を使う新製法が対応策の一つだ。ただ、実用化には時間がかかり、当面の寄与は限られる。「(目標の引き上げにより)現実感のない数字が独り歩きする」との懸念の声もある。コスト面の課題もある。水素製鉄などの新製法の実現には「4兆~5兆円かかる」。コークスを使う場合と同水準の費用に抑えるための水素価格は、1N立方メートル(ノルマルリューベ=標準状態での気体の体積)あたり8円とみる。政府が将来目標で掲げる水素のコストは同20円。一層の引き下げが必要だ。”

政府は2兆円の基金をつくり、脱炭素につながる研究開発を支援する方針だ。炭素税などによる排出削減も検討している。炭素税などを財源に、次世代技術を普及させる取り組みが必要だ。脱炭素は今や世界の産業界が向き合わざるを得ないテーマだ。日本企業が得意とする分野もある。EVの競争力に直結する車載電池用の素材では高いシェアを持ち、人工光合成といった未来技術でも世界の先頭集団を走る。さらなるイノベーションを起こせれば、新たな成長機会につながる。

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