ワークマンがキャンプ用品へ参入
作業服大手のワークマンがキャンプ用品への本格参入を発表しました。ドームテントからランタン、耐熱アルミ―テーブルまで約130アイテムをそろえます。さらに「ネット注文」かつ「店舗受け取り」に限定する販売戦略です。そこには該社のどのような思惑があるのでしょうか。
2022年2月25日付け日経ビジネス電子版に掲載された記事より、
”2月22日、ワークマンはキャンプ用品への本格参入を宣言した。キャンプ人気が高まる中、キャンプ用品の既存プレヤーとの競合が激しいことは認識しているが、初年度から40億円の販売を見込むなど強気の方針だ。ワークマンならではの勝ち筋とみるのが、キャンプ初心者の掘り起こしだ。キャンプに1回行くとはまる人は多い。しかし、その1回目の障壁が非常に高いという。ワークマンが提案する「初心者セット」はテント、寝袋、ランタン、テーブル、いすの5点セットで9940円(税込み)と1万円を切る価格設定だ。強みとする低価格路線でキャンプのハードルを一気に下げたいという思惑がある。”
”さらに機能性でも差異化を図る。「ワークマンといえば機能性」として、作業服やアウトドアウェアで培った機能素材を横展開している。例えば、「フレイムテック」という防融加工を施した独自素材。綿より耐熱温度が高く、溶けにくいため、火の粉などによる穴開きを軽減できる。このフレイムテックをテントに応用し、撥水機能を加えたのが「ミシックドームテント」である。保温性と吸湿性に優れ、針穴のような小さな穴が開いても自己修復する独自生地「リペアテック」は、これまでダウンジャケットに採用していたが、今回は寝袋に応用した。虫を寄せ付けない素材「ディアガード」を採用したテントもラインアップに加えた。”
”ワークマンはこの発表から3週間前にPB(プライベートブランド)商品の価格据え置きを発表していた。円安と原材料高、運送費高騰という三重苦の中で価格を変えずにいられるのも、キャンプ用品が関係しているという。ウェアの生地をキャンプ用品に使えば、生地の使用量が増える。例えば防虫テントでみると、ソロキャンプ用でウェア3着分、4人向けの大きなテントだと15着分の生地を使うという。オリジナル生地だから、たくさん作れば作るほどコストダウンになる。値引きはできないが、価格の維持はできる。「価格据え置き宣言」の裏に、同じ素材をキャンプギアで横展開するという戦略が大きく効いているという。”
”満を持してキャンプ用品に参入したワークマンだが、驚かされるのはその売り方だ。「ウェブ注文」かつ「店舗受け取り」限定で展開する。店舗に商品の在庫は置かず、関東と関西にある流通センターに保管。注文が入ったら購入者が受け取り場所として指定した店舗に届ける仕組みだ。配送料はかからないが、店舗に取りに行くという手間が発生する。独自の売り方を選んだ理由は、売り場面積が尽きてしまったからだという。作業服専門店だったワークマンは「ワークマンプラス」「#ワークマン女子」と業態を広げて新商品を次々と送り出してきた。稼ぎ頭であるPB商品は、足元では全店売上高の62.4%を占める。特にアウトドア商品の伸びが著しい。アウトドア向けのPB「フィールドコア」の売上高は2019年度の71億円から2020年度に176億円、2021年度には271億円に達した。”
”取り扱う商品が増える中、既存店舗にはキャンプ用品を扱うスペースがほとんど残されていない。そこでネット注文限定という手段を選んだ。売り場に並べなくていいので、展開する商品を絞らなくていいというメリットも生まれる。ただし利便性を高めるためには、受け取り拠点となる店舗をもっと増やす必要がある。そこで弱点だった都心部の店舗網拡大にも乗り出した。4月1日には大阪のなんばCITYにシューズ専門の新業態「ワークマンシューズ」を出店。続く4月28日は東京・銀座のイグジットメルサ、6月には東京・池袋のサンシャインシティにそれぞれ「#ワークマン女子」の店舗をオープンさせる予定だ。今後も都心部の商業施設に積極的に出店する方針。ネットで注文したキャンプ用品を会社帰りや他の買い物のついでに受け取りやすくしていく。”
”店舗受け取りに限定した理由は、売り場面積だけではない。そこにはフランチャイズ加盟店への配慮がにじむ。店舗経営にゆとりがある「ホワイトフランチャイズ」をキャッチコピーに掲げて加盟店希望者を募集しているワークマンは、直近の全店売上高に占めるフランチャイズ・ストア売上高が93.6%と高い。ネット注文を受け付けてそのままワークマン本体が販売してしまうと、加盟店の売り上げが減る恐れがある。店舗受け取りに限定して加盟店の売り上げにすれば、加盟店オーナーの経営にプラスになるうえ、受け取りに来た購入者が店内で別の商品を手にする効果も期待できる。さらに購入者がオンラインで商品を確保できるため、店舗への電話での問い合わせも減らせると見込む。”
”ワークマンは2021年末時点で935だった店舗数を、2030年に1500まで増やす目標を掲げている。フランチャイズ加盟店の経営を優先することによって、結果的には加盟店希望者を増やす効果を狙っているようだ。ワークマンはネット注文・店舗受け取りによる販売形態をキャンプ用品以外にも広げ、5年間で200億円規模に拡大させる考えだ。”