号外:IPCC、排出ピーク「25年までに」

2022年4月5日付け日本経済新聞電子版に掲載された記事より、

カリフォルニアの山火事

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が4月4日公表した報告書は温暖化ガスの早期削減を改めて求めた。パリ協定の1.5度目標の達成には2025年までに排出量がピークを過ぎる必要がるという。電気自動車(EV)向け蓄電池の単価が10年間で85%下がるなど技術革新が進んでいるが、途上国に行き届いていない課題がある。ロシアのウクライナ侵攻という危機の下で世界の協調が改めて試される。”

分野別の脱炭素のシナリオ

”IPCCは太陽光や風力などの再生可能エネルギーやEVの普及が脱炭素に重要と指摘した。将来のイノベーションに頼るのではなく、まず現状できうる対策の総動員を促す内容だ。今回、2010年~19年の10年間で低炭素技術のコストが劇的に下がったとの試算を示した。太陽光は85%、風力は55%、EVなどに使うリチウムイオン電池は85%安くなった。”

エネルギー部門では化石燃料のフェードアウト(段階的削減)を進める必要も訴えた。2021年11月に英国で開かれた第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)でも世界は石炭の段階的な削減で合意していた。想定外だったのはロシアのウクライナ侵攻だ。脱炭素の当面の代替熱源とみていたロシア産の天然ガスに頼るのが難しくなった。欧州委員会は3月に再生可能エネルギーの域内生産を積極的に推進する計画を打ち出した。”

”その陰で一時的に石炭回帰を模索する動きも出ている。国連のグテレス事務総長は「化石燃料を代替するための政策を誤れば長期的にはさらに化石燃料への依存を強める」と懸念する。「1.5度目標を無視すれば破滅的な被害が人々に降りかかる」と警鐘を鳴らす。IPCCは「2050年ごろにCO2と他の温暖化ガス排出量を大幅に削減してネットゼロにしない限り、21世紀中に1.5度と2度の両方を超える」と訴える。先ずは2030年時点で2010年比45%の削減も必要と指摘している。早期に対策を進めなければ目標達成が遠のくとみる。”

”産業革命前からの気温上昇は既に1.1度に達する。2月の報告書でも気候変動で将来的に30億人が水不足に苦しむなどの深刻な予測を明らかにしたばかりだ。英サセックス大のブリスボア上級講師は科学誌ネイチャーで「政府はイノベーションではなく既に実用化された技術で気候変動問題の解決に集中しなければならない」と主張した。”

EVへの転換のグラフ

”IPCCは運輸部門の脱炭素の重要性も指摘した。国際エネルギー機関(IEA)によると世界のEVの販売台数は2020年には2019年比で41%増え、約300万台に上った。問題は地域差だ。普及は主に欧州と中国に偏る。日本の普及率は1%にも満たず、テコ入れが求められる。船舶や航空の分野では水素燃料やバイオ燃料の採用も重要になる。”

”経済成長を続ける新興国や途上国の削減も大きな課題だ。「途上国では低炭素技術のイノベーションが遅々として進まない」として地域間の格差を指摘した。2009年から10年間の世界の排出量増加の83%は中国やインドなどアジア太平洋諸国が占めた。インドネシアのジョコ大統領は11月に開く20ヶ国・地域(G20)首脳会議で再生可能エネルギーの普及拡大策を議題とする意向を示している。”

今回の報告書はエジプトで11月に開かれるCOP27の土台にもなる。気候変動の被害が深刻な途上国への支援も主要なテーマになりそうだ。IPCCの報告書は各国の産業政策にも大きな影響を与える。欧州が補助金や環境規制で主導するEVへの転換は自動車業界の序列を大きく変えかねない。日本は手をこまねいていれば、温暖化ガスの削減だけではなく、脱炭素を成功のテコにする政策誘導でも世界の流れに取り残される懸念がある。危機下で各国・地域の健全な競争と協調が試される。”

Follow me!