沖縄発、サトウキビの搾りかすから生まれたデニム

沖縄で、バガスと呼ばれるサトウキビの搾りかすをアップサイクルして、新たな産業を構築しようという取り組みを紹介した記事です。色々な地域で培われたさまざまな技術を生かし、コンパクトなサプライチェーンを保つことで、環境負荷の低い、循環可能なビジネスモデルを模索しています。その試みは、異業種や国境を越えた人々の共感を得て、徐々に広がりを見せています。

2023年2月9日付けSustainable Brands Japanに掲載された記事より、

浦添市港川外人住宅街

“おしゃれで可愛い、小さなショップたち。浦添市の通称「港川外人住宅街」は、かつて外国人向けの住宅としてつくられたコンクリート造りの平屋を店舗に改装した店が並ぶ、沖縄では比較的新しい地元の観光スポットだ。そのレトロでアメリカンな雰囲気は、戦争を経て米国と深いかかわりを背負う沖縄の、明るく開放的な一面を反映している。「SHIMA DENIM WORKS」はこの場所で2019年1月にオープンした。運営するのは山本直人代表が設立した「Rinnovarion」(東京・文教)だ。”

SHIMA DENIM WOKSの店舗

“山本代表が前職の広告代理店の社員時代の2015年ごろ、仕事で何度も沖縄に足を運ぶなかで、統廃合されるサトウキビの製糖工場で話を聞く機会があり、そこで「サトウキビは沖縄の宝」と大きく書かれた看板を見て、心を動かされた。コロナ禍前の沖縄は約20年間で飛躍的に観光客が増え、一大観光地になった。しかし人口はほぼ変わらず、限られたリソースのなかでいちばん影響を受けたのが一次産業だ。収益性がなく、重労働である農業は特に衰退していった。なかでも基幹産業であるサトウキビ農家が激減し、収量も最盛期の3分の1になっていた(現在は年間約81万トンを収穫し昔ながらの黒砂糖などを生産)。山本代表は、なんとか本当の意味で地域活性につながるような産業を起こせないかと考えた。”

バガスと呼ばれるサトウキビの搾りかす

“製糖工場にはバガスと呼ばれるサトウキビの搾りかすが山積みになっていた。一部は工場のボイラーの燃料や畜産の飼料などに再利用されるが、大半は廃棄される。山本代表は、食物繊維が88%と豊富でセルロース分の多いこのバガスの特性を生かして繊維が作れるのではないか、そしてその繊維からデニムをジーンズを作れないかと考えた。なぜジーンズなのかというと、もともと炭鉱のユニフォームだったデニムは非常に丈夫で、色落ちの仕方もさまざま。普通の洋服にはない経年変化が味わいにつながり、ひいてはそれが製品寿命を最長化できると考えたからだ。さらに諸説はあるが、ジーンズはアメリカから始まったとされていて、沖縄にとって非常にシンボリックな製品であり、目指す事業の意味合いと合致していた。”

バガスとバガスの粉末、紙糸やデニム生地

“構想は、沖縄県内の工場でバガスを粉末にし、1300年もの歴史を持つ岐阜県美濃市の和紙工場の協力で、吸湿速乾性に優れ、綿の半分ほどに軽い「紙糸」にすることで実現した。そこからは国産デニムの生産地である広島県福山市へと舞台を移し、撚糸工場で「バガス繊維」として加工した後、テキスタイル工場で、通常のオーガニックコットン(Cotton USA)と組み合わせながらデニム生地に織り上げていく。染色工場でも薬剤は一切使わない。ブランド「SHIMS DENIM WORKS」のジーンズは、一本一本がそのような工程を経てできあがり、商品の一部は最後、沖縄唯一のデニム工房で、ハンドメイドで仕上げられる。端切れや糸くず等の廃棄物は、焼却せずに炭化させ、土壌改良剤として再利用する。サトウキビ畑にまかれた炭はサトウキビの成長を促進し、そこから新しい芽が育つ。それが、「SHIMA DENIM WORKS」が確立したサーキュラーエコノミーの流れだ。”

“HPの左肩には「現在、消費したバガスの総量23050キログラム」とある(2023年1月現在)。初年度は1回に約200キロのバガスを原料に製品を工場に発注していたのが、5年目の今は1回あたり1トンを年に2回は発注するなど、事業規模は約5倍に成長した。山本代表によると、一般的なジーンズは、原料となるコットンを収穫し、繊維化・生地化して製品として店頭に並ぶまでに「地球を1.6周するほどにモノが動く」とされる。「SHIMA DENIM WORKS」の場合、それを日本各地のしっかりとした技術を持つジャパンデニムの産地をつなぐことで、5分の1の距離、約1万5000キロほどに縮めたのが大きな特徴だ。”

“山本代表は「ジーンズというのは、糸を作る人、染める人、布を織る人とものすごく分業制です。その中で世界に誇る技術を培ってきた日本の工場が、工賃を上げることもできない状態でいるのはおかしい。沖縄だけでなく、デニムに関わる日本の地域が一緒に浮揚していかないと真の地域創生にはつながらない」と語る。つまり、サプライチェーンの物流をできるだけ小さく保ちつつ、日本国内のデニム職人の技術を生かし、各工場がそれぞれに取り組んでいる環境負荷を減らすための取り組みを積み上げながら循環の輪をつくっていこうという、絶妙なバランスの上に成り立つ距離が約1万5000キロなのだ。”

サトウキビの搾りかすから生まれたジーンズ

“「紙糸」から生まれた生地ならではの光沢があり、パリッとした独特の風合い。履くほどに柔らかくなるというジーンズは1本27500円~36300円(税込み)と値は張る。それでも昨年は他社とのコラボレーション商品などを含めて1250本を販売し、ネット販売も含めた売り上げは前年比で約1.8倍となった。2年前には県の優良産品に選定されるなど認知度も上がってきている。”

コラボ商品の例は、地元オリオンビールとの連携による限定50本のジーンズや、「SHIMA DENIM WORKS」のアップサイクル技術に注目したサッポロビールの声掛けで、ビールの搾りかすから製造したジーンズなど。共創の輪はバガス以外の素材にも広がり、化粧品の材料に使った後のハトムギや、食品に使ったトマトの葉、カカオの殻や東北地域のコメの籾殻など多岐にわたる。要は「とにかく廃棄されるものをSHIMS DENIMの力で製品化する」方向で新たなビジネスが生まれつつあり、ジーンズ以外にも愛知県一宮市ではウールにバガス繊維を組み合わせてスーツの生地に仕立てるなど、沖縄発のアップサイクルの形が全国に波及している。”

“協業は日本だけにとどまらない。サトウキビはもちろん沖縄だけではなく、世界中で年間19億トンも生産されている世界最大の農作物であり、年間1億8900万トン~3億7800万トンものバガスが発生している。昨年からは、世界第5位のサトウキビ生産大国であるタイとの連携を模索し、工場で発生するバガスを何らかの形でアップサイクルするプロジェクトが具体化に向けて進んでいるところだ。「僕らのやっていることがアパレル産業の環境負荷低減に少しでもつながり、世界の課題解決の一助になればいいなと思います」、「地域をサポートするとは雇用を生み、産業を構築することです。それをバガスと紐づけてこそ、沖縄の、サトウキビ産業の創生につながります」(山本代表)。”

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