号外:世界遺産の屋久島、実は「EV天国」①
世界遺産の屋久島でEVを普及させるという話題です。仕掛けているのは屋久島町とドイツ車のアウディです。なにか面白そうな話ですよね。
2023年9月29日付け日経クロストレンド電子版に掲載された記事より、
“鹿児島県の屋久島町が、世界的に見ても先進的な「電気自動車(EV)天国」に生まれ変わろうとしている。島にある水力発電で発電した電力を使ってバッテリーを充電し、真の意味でのカーボンニュートラルな環境整備を試みる。実はその黒子になっているのがドイツのアウディだ。世界自然遺産として登録される屋久島は、鹿児島県佐多岬の南南西約60キロメートルにある人口1万1000人ほどの小さな島だ。島内の約85%が森林で占められており、電車がないため住民の主な移動手段はバスや自家用車だ。当然、燃料となるガソリンや軽油は島外から運んでいる。もし車両の大半を電気自動車(EV)へ大胆に転換できれば、島内で使う化石燃料の量を大きく減らせる。”
“カーボンニュートラル社会の実現に向けた動きが世界中で加速する今、屋久島は「CO2フリーの島作り」を掲げ、その一環としてEV普及に取り組んでいる。その目玉として行っているのが、独自の「電気自動車導入促進補助事業」だ。特筆すべきは、対象車をバッテリー式電気自動車(BEV)に限定していること。プラグインハイブリッド車(PHEV)や燃料電池車(FCV)は対象外なのだ。島の予算の中から、購入代金として1台につき55万円を補助。これは、経済産業省の令和5年度「クリーンエネルギー自動車導入促進補助金」および鹿児島県の「離島における電気自動車等購入支援事業補助金」との併用申請も可能だったというから、かなり手厚い。また、充電および給電設備に関しても、設置費用の最大50%まで上限8万円を補助する。こちらもほかの補助金との併用が可能だ。これらの財源は、企業によるふるさと納税で賄われているという。また島内各所に設置された公共充電器は、普通充電も急速充電もともに無料で開放されている。カーボンニュートラルだけでなく、島内のエネルギーコストの削減にもつながりやすい施策を打ち出す。”
“実は自然が最大の財産である屋久島町では、10年ほど前にも、EV普及に向けて取り組んだことがある。しかしながら、EV普及率は2%にとどまった。背景にあったのが、EVの走行性能と充電設備の充実という2つの問題だった。当時、EV試乗会などの催しを行い、島内に急速充電器も設置し、テスト的にEVの導入を行ったタクシー会社もあった。屋久島町長の荒木耕治氏は当時を次のように振り返る。「全周約130キロメートルの小さな島とはいえ高低差が多く、当時のEVの性能では1回の充電では航続距離が足りなかった。島の反対側など離れた場所に出向くと、帰ってこられない。タクシーについても、途中充電が必要になってしまい、お客さんを連続して乗車させることが難しく、効率的とはいえなかった」。”
“屋久島が早くから、EVシフトに熱心だったのは、限りなく100%に近い再生可能エネルギーによる電力自給率を誇るからだ。なんと、島内で使われる電気の99.6%が水力発電で賄われている。屋久島の山間部の年間降水量は、8000ミリリットルから1万ミリリットルといわれ、全国平均の約5倍以上になる。その豊富な水をダムに貯蔵することで、3か所ある水力発電所の総発電出力は5万8500キロワットに及ぶ(現在の年間発電量は3万4000キロワット)。その発電量のうち、島内で必要な電力は25%ほど。残りの電力を使って、水力発電事業を手がける屋久島電工が、電気炉を使った炭化ケイ素の生産を行っている。つまり供給能力には大きな余裕があり、これをクリーンな形でEVの充電に充てようと考えた。”
“とはいえ、なかなかうまくいかなかったEVシフトだが、ここにきて高価だったBEVが、以前に比べれば価格の低廉化が進み、走行性能も向上。さらに国などの購入を支援する補助金制度も手厚くなってきた。屋久島はようやく駒を先に進める好機が到来したと判断した。そこに屋久島の持続可能な未来に向けた取り組みを支援しようと立ち上がったのが、将来的にEVメーカーへの転身を表明している自動車会社、ドイツのアウディである。インフラ整備には小さな島である屋久島町だけの力には限度があり、国や企業などの協力が欠かせない。そこで2023年7月、日本法人のアウディジャパンは同町と包括連携協定を結び、島内4か所に合計7基の高出力タイプとなる8キロワット普通充電器を寄贈。さらに鹿児島などでアウディディーラーを展開する「ファーレン九州」が、屋久島町役場と屋久島電工に、各1台ずつアウディ製EVを長期貸し出しも行う。”