号外:原発、不作為からの再出発

原子力発電所についての話題です。日本では、東日本大震災における福島第1原子力発電所での事故以来、原発の再稼働はなかなか進まず、新設や増設は1件もありません。このところエネルギー安全保障と脱炭素が、同時に重要な課題として認識されています。日本でも将来に向けて原子力発電をどのように位置づけていくのかは避けて通れないテーマです。岸田政権はようやく再稼働の促進や運転期間の延長、新増設を検討する方向へ転換しましたが、具体的な議論はこれからです。原発の安全性を確保することはもちろん最優先ですが、そのうえで増加する電力需要を賄うための具体策を早急にまとめる必要があります。

2023年10月12日付け日本経済新聞電子版に掲載された記事より、

“半導体大手、台湾積体電路製造(TSMC)の進出に湧く九州・熊本。立地選択の決め手に潤沢な水と、安い電力を無視できない。九州は関西と並び、最も電気料金が安い。東京電力ホールディングスの家庭用料金は10月時点で九州電力より約24%高い。東電が値上げし、九電が据え置いた6月には5割近い差が生じた。理由は原子力発電所の稼働数だ。九電は4基、関西電力は7基の原発が稼働する一方、東電はゼロだ。火力依存率は7割を超え、4割台の関電や九電に比べ、燃料となる石油や天然ガス価格の変動を受けやすい。”

電気料金の差は半導体のように大量に電力を使う企業には看過できない。さらに環境省によると1キロワット時の発電で生じるCO2の量は、九電や関電は東電より4割少ない。原発が動く西日本と動かぬ東日本。安価で環境負荷の小さい電力は日々の暮らしや企業競争力、地域の格差を広げる。

脱炭素は総力戦だ。再生可能エネルギーに加え、原発の活用が不可欠との認識は、ウクライナ侵攻後のエネルギー危機と、脱炭素の潮流の下で世界に広がる。国際エネルギー機関(IEA)が9月に発表した「ネットゼロ・ロードマップ」は、原発の発電量を2050年までに2倍に引き上げることを求める。フランスは最大14基を新設。英国は原発の発電量を3倍に引き上げ、需要の25%をまかなう。米政府は脱炭素政策の支援対象に原発を加えた。小型モジュール炉や核融合炉など新技術の研究も活発だ。日本エネルギー経済研究所の小山堅主席研究員は「エネルギー安全保障重視への揺り戻しで原発への関心が戻ってきた」と語る。岸田文雄政権は2011年の東電福島第1原発の事故以来、目をそらしてきた原発政策を転換した。再稼働の促進や運転期間の延長、新増設に道を開いた。ただ日本がどこまでこの波に乗れるかは冷静に見る必要がある。事故で失墜した信頼の回復は道半ばだ。

各地方の電力料金

“前途には不都合な未来が待ち受ける。経済産業省は2050年に電力需要が足元の3~5割増えると試算する。生成AI(人工知能)の普及や、データセンターの増加などIT(情報技術)化の進展により電力需要が爆発的に増える一方、電力を脱炭素電源である再生可能エネルギーや原子力で確保する必要がある。エネルギー基本計画は2030年度に電源の2割を原発で確保する目標を掲げる。既存原発の運転期間をすべて60年に延長しても順次、廃炉となる。2050年時点で同じように電源の2割を原発で維持するなら10~20基の立て替え・新設が必要だ。原発の新増設が難しければ、再生可能エネルギーや脱炭素火力を伸ばさなければならない。増大する電力需要へ今、手を打たなければ、新たな不作為を生んでしまう。”

“長崎県対馬市の比田勝尚喜市長は9月末、原発から出る使用済み核燃料の最終処分地の選定をめぐる文献調査を受け入れないと表明した。「市民の合意形成が十分でない」と判断した。原発の活用は福島第1原発の廃炉と福島の復興を進め、使用済み燃料の最終処分に道筋をつけることが条件だ。放置したままで新増設は受け入れられない。福島では処理水の放出が始まった。今後、原子炉内に融け落ちた燃料デブリ取り出しの苦闘が待つ。原発を国策で使う以上、国が決意をもって貫徹する。これが原発の再出発に欠かせない。

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