号外:プラス2℃:忍び寄る気候パンデミック
新型コロナウイルス感染症のパンデミックは私たちの生活に深刻な影響を与えました。このところ話題になることも少なくなりましたが、ウイルスは変異を繰り返しながら今でも私たちの身近に潜んでいます。決して根絶されたわけではないのです。気候変動がもたらすリスクの一つに感染症の拡大があります。近い将来に新たなパンデミックを引き起こすかもしれないのです。
2024年11月21日付け日本経済新聞電子版に掲載された記事より、
“プラス2度の世界は人類と病原体の接触を増やし、「気候パンデミック」を引き起こす。病原体を運ぶ生物の行動範囲が広がり、数は爆発的に増加する・・・。”
“生物の中で最も多くのヒトを殺傷してきた蚊にとって気候変動は種を繫栄させる好機だ。1年の中で活動できる期間が延び、生息域が拡大する。高熱や発疹を起こすデング熱のウイルスを媒介するヒトスジシマカは、北海道へと生息域を広げようとしている。1950年には関東以南でしか生きられなかった。2015年に青森県で確認され、津軽海峡を越えるのは時間の問題だ。”
“蚊による病気の感染者数は2050年までに5億人増えると米フロリダ大学は予測する。米国はすでに蚊の脅威にさらされている。「あなたの家の裏庭にも、感染源の蚊がいる」。米ペンシルベニア大学は10月に出した報告書で警鐘を鳴らした。今夏にはロサンゼルスの保健当局はデング熱の感染が「前例のない状況になっている」と警告した。8月にはニューハンプシャー州で、10年ぶりに確認された東部ウマ脳炎が1人を死に追いやった。米国で例年感染者が出る西ナイル熱は10月1日までに880件の感染が確認された。新型コロナウイルス対策で米政府の司令塔を務めたアンソニー・ファウチ氏も感染した。ペンシルベニア大のキャスリーン・ホール・ジェイミソン教授は「重い感染症をもたらす蚊に出くわすのは異国とは限らない」と警告する。”
“危機感は十分に認知されていない。約1000人を対象に実施した同大の調査でデング熱や西ナイル熱にかかるのを心配する人は16%にとどまった。気候変動で活動の場を広げるダニ、ノミ、コウモリも感染の温床となる。米ハワイ大学は気候変動により世界で200種類超の感染症の患者が増えていると警告する。”
“政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会会長を務めた尾身茂氏は「地球温暖化は間違いなくパンデミックを起こす背景要因の一つだ」と指摘する。深刻になる米国のハリケーンは湖の環境を変え、致死率が高い「人食いバクテリア」を増やす。インドでは2023年に致死率40%のニパウイルス感染症で、2人が死亡した。南米沖の海水温が高まるエルニーニョと干ばつで森のエサが枯渇し、人里に近づいたコウモリが感染源になった可能性が指摘されている。”
“北極圏の永久凍土には3万年前に意図せず仕込まれた「時限爆弾」が潜む。永久凍土は北半球の陸地の4分の1を占め、太古の病原菌が眠る。2016年にはシベリアで炭疽菌が広がり、感染したトナカイに接触した少年が死亡した。”
“感染症の発生が不可避なら、兆候を見つけ出すしかない。オランダでは市民がダニにかまれた状況をスマホで共有して異変を早期発見する「ダニレーダー」が始まった。新型コロナウイルスは変異、感染拡大を繰り返し世界を翻弄した。次に惨禍を生む原因は、気候の激変かもしれない。”