号外:100年後の2120年、人類は海上都市で暮らすのか?
2019年11月28日付けの日経ビジネス電子版に掲載された記事が、大変興味深かったので少しご紹介させていただきます。このHPでは、地球温暖化による気候変動とその影響を、衣料品分野での環境配慮によって少しでも軽減できないかということ(サステイナビリティ)をメインテーマとして情報発信しています。今回ご紹介する記事は、地球温暖化を抑制しようとする人類の努力が、あまりうまくいかなかった場合に、人類はどのような世界で生き延びることになるのか、その場合にどのような技術が必要になるのかということを考察しています。あまりありがたい話ではないのですが、逆説的に、地球環境を守るために、今行動することの大切さを示しているようにも思います。
“国連が6月に発表した2019年版の人口推計では、2050年までに現在より20億人増えて97億人に、2100年には110億人となる。国連はこうして増加した人々がどこに暮らすかも予測している。今後、人類はますます、経済活動が盛んでインフラが発達した「都市部」に集中するという。1950年代には3割未満だった全人口に占める都市人口比率は、現在55%まで上昇しているが、2050年には実に約7割が都市人口になると計算している。”
“100年後の気候はというと、国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)がまとめた報告書によれば、地球の平均気温は最も温暖化が進んだ場合、2.6~4.8度上昇する。これに伴って確実に発生するのが海面の上昇だ。地球温暖化が最も深刻化した場合、南極の氷が解けるなどして、海面が今世紀末までに最大1.1メートル上がるという(国連予測)。東京、上海、シンガポール、ムンバイ、ジャカルタ、ロッテルダム、ニューヨーク等々、世界の巨大都市の多くがその影響を受けることになる。”
“110億人まで膨れ上がった地球の人口。このうち7割は都市に集中するが、現在の巨大都市の多くは水没に向かう。そのような想定をもとに、清水建設は今、海上都市の建設を本気で検討している。この構想を打ち出したのは2008年。「人口爆発と海面上昇は、100年後に確実に来る未来。そんな環境で人類に最も必要な建築物は海上都市しかない。」としている。
“(イメージ)赤道直下の太平洋上に円形の人工島がいくつも浮かんでいる。各島の中央にそびえ立つタワーの高さは1km、花のように開いた上部の直径も1km。人工島の大きさも直径3kmと巨大だ。これが清水建設が開発した海上都市「Green Float(グリーン・フロート)」だ。花のように開いた上部形状は、日照を最大限に活用するためだ。太陽の光が降り注ぐ「花びら」に当たる部分が、3万人が暮らす居住区とオフィスが並ぶ空中都市ゾーンだ。地上700~1000mであれば、気温は地上に比べて4~6度低い。平均気温が最大4.8度上昇した世界であっても、冷房に頼らず快適な暮らしが維持できる。”
“3万人が陸地から離れて海洋の上で暮らす以上、食糧を自給自足する仕組みも欠かせない。空中都市での生活やビジネス活動を通じて排出されたCO2や生ごみ、排水はすべて「茎」にあたる部分に配置された植物工場で活用される。必要な電力も自給自足で賄う。海面近くの暖かい表層水と、水深700メートル前後の冷たい深層水の温度差を利用して発電する。CO2の排出を伴わない発電方法を採用すると同時に、円形の大地部分には巨大な熱帯雨林の森を新たにつくり、CO2の削減につなげる。”
“「海上都市というと突拍子もなく聞こえるかもしれないが、都市を海上に浮かべるという点さえクリアできれば、清水建設が現在陸上で展開している建設施工や都市計画の技術やノウハウはすべて活かせる。」と同社は強調する。同社は2014年、深海未来都市構想「Ocean Spiral(オーシャン・スパイラル)」も発表済みだ。海上都市同様、人口爆発・温暖化時代の人類居住空間がコンセプトだ。”
海上(海中)都市を実現するためには、建設技術のほかにも様々な技術、企業の力が必要になると予想されます。
①日立造船:「浮体式構造物」を造る技術。簡単に言うと造船。同社は清水建設と技術交流しています。同社は、大型船が航行する際に可動できるよう海上に浮かせている、世界初の旋回式浮体橋「夢舞大橋」(大阪市:後述)の施工実績があり、これまでに培ってきた技術が、海上都市構想の根幹になる可能性があります。
②五洋建設:海洋土木技術。同社は1975年からスタートしたスエズ運河工事など、世界中の海で実績を積み上げてきた海洋土木のトップ企業です。
③東レ:海水淡水化技術。同社の淡水化ノウハウは、繊維・皮膜技術を生かした「膜処理法」で、従来主流の「蒸発法」に比べてエネルギー消費と造水コストが低く抑えられるとして注目されています。
④昭和電工:コンクリートの表面を樹脂で加工して、防水する技術に優れています。
⑤セシルリサーチ(兵庫県):海洋生物・付着生物の調査試験や研究開発に特化した世界で唯一の企業で、フジツボの付着を防止する技術を研究しています。
⑥日プラ(香川県):水族館のアクリル水槽パネルで世界のトップシェア。沖縄美ら海水族館、ドバイ水族館(UAE)、中国のチャイムロング横琴海洋大国などで巨大な水槽を施行。海中に居住区を造るには、水圧に耐えられる強靭な「窓」が必要になり、同社が持つ強度と透明度の技術が生かされます。
“シンガポールのリー・シェンロン首相は今年8月、海面上昇から国土を守るためのインフラ整備に、今後100年間で少なくとも1000億シンガポールドル(約8兆円)を投じると表明している。標高が低い上に国土が狭く、沿岸部の埋め立て余地も減る同国。その活路としては、海上(海中)を検討しているかもしれない。”
海上(海中)都市と聞くと、本当に突拍子もない話に聞こえますが、地球温暖化に歯止めをかけることができなければ、100年後には実際に必要なコンセプトになっているかもしれません。その際に必要になる技術については、前述のように、現在各社が研究開発に努力している技術が生かせるかもしれません。また清水建設のように、具体的な検討を進めている企業もあります。本来的には、人類が協力して、地球温暖化に歯止めをかけなければなりません(サステイナビリティの実現)。科学者の報告でも、私たちが目にしている気候危機の現状からも、残された時間は限られています。しかし、まだまだ世界の国々が一枚岩となって対策に取り組んでいる状況ではないことが残念です。このままでは、本当に海上(海中)都市に移住することになってしまうかもしれません・・・。
大阪市の発注で平成13年3月に完工。大阪港の夢洲(2025年大阪・関西万博会場)と舞洲を結ぶ世界初の旋回式浮体橋。大阪港の主航路で緊急事態が発生した場合、橋を旋回させて大型船舶を航行させることができる。タグボートによる曳航時(写真下段左)、架橋現場での旋回試験時(写真下段右)