号外:気候変動:IPCC最新報告書(海と氷)

2019年10月6日付けNational Geographic電子版に掲載された記事の抜粋です。読むだけで気が滅入ってきますが、これが現実なのだと思います。時間の猶予はありません。速やかな行動が必要です。

“気候変動の影響はいたるところで表れ始めている。上昇する海水温。崩落する氷床。それが国連の「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」の最新レポート「海洋と雪氷圏の気候変動に関する特別報告書(SROCC)」が明らかにした現実だ。”

“気候変動はもはや仮定の話ではなく、現実の問題となっていることを科学は証明している。人間の活動による地球温暖化のために、海、極地の氷冠、高山の氷河はすでに限界近くまで熱を吸収しており、人間が依存しているシステムそのものが崩壊の危機にさらされている。

“例えば、ヨーロッパアルプスの最高峰モンブランのイタリア側にあるプランパシュー氷河は、いつ崩壊が始まってもおかしくない状態にある。海では海水温の上昇により漁場が移動して漁獲が落ち込んだところが増えている。地球の人口の27%が住む沿岸地域は、海面上昇と巨大化した嵐の脅威にさらされている。

2015年、フランスのパリで世界の首脳は、地球の平均気温の上昇を産業革命前と比べて2℃未満に抑えるという目標を立て、さらに1.5℃未満に抑える努力をすると合意した。当時は、2℃は「安全な」目標とされていた。1990年以降、IPCCは気候変動に関する証拠を世界中から集め、5本の包括的評価レポートを作成し、現在は6本目を作成中だ。またトピックごとに焦点を絞った特別レポートも作成し、過去1年間で3本が公開された。最初の1本は2018年委公開され、1.5℃の上昇でも地球には甚大な被害がもたらされると警告している。今年発表された第2のレポートは、陸上と森林ですでに観測されていることと、将来起こるであろう影響を予測している。そして今回発表された第3のレポートは、海洋と雪氷圏への影響を報告したものである。

南極の氷山

“これらのレポートによると、1.5℃であろうと2℃であろうと、いかに目標が達成困難であるかが日増しに明らかになってきている。気温の上昇を1.5℃未満に抑えるには、2050年までに温室効果ガスの排出を「正味ゼロ」にしなければならない。だが、現在人類はまるで違った方向へまい進している。今のままでは、今世紀末までに地球の平均気温は3.5℃以上上昇すると言われている。

“今回のレポートは「海」と「氷」というふたつの重要な要素に焦点を当てている。気候変動はすでに、そのどちらも大きく変えてしまった。その負担の大半を引き受けている海は、1970年以降、大気中の過剰な温室効果ガスに蓄えられた熱の90%以上、そしてCO2の20~30%を吸収している。つまり今のところは海水が緩衝材となって、陸上生物は最悪の影響を免れていると言える。もしそうでなければ、大気の平均気温は現在の1℃よりもはるかに高くなっていた。”

暖かい海はハリケーンや台風を強大にし、嵐の雨量を増大させる。だが人間には見えない影響もある。海表面が暖まると、海水は軽くなり、その下にある冷たくて栄養に富んだ海水と混じりにくくなる。すると海面近くの水の動きが鈍くなり、酸素の量が減り、海洋生物の栄養が不足する。また海水に取り込まれるCO2が増えて酸性化が進み、微小なプランクトンからカキ、巨大なサンゴ礁に至るまで、酸に弱い炭酸カルシウムで殻を形成する生き物に負担がかかる。すでにサンゴ礁の約30%が崩壊寸前、60%が大きな脅威に直面している。平均気温が1.5℃まで上昇すると、2100年までに70~90%のサンゴ礁が崩壊する。サンゴ礁の崩壊は人間の生活にも大きく影響する。サンゴ礁は、沿岸の町を襲う嵐の威力を弱め、波を鎮める効果がある。また人間の食物となる魚の繁殖を助け、観光業や沿岸文化を支えているからだ。”

海水温の上昇で、多くの海洋生物は冷たい海水を求めて極地方向へ移動を始めており、漁業にも影響が現れている。人間がこのまま炭素を大量に排出する生活を続けるなら、今世紀末までに海の魚の量は20%近く減少すると予想される。すでに、マグロなど遠洋漁業の漁獲高は停滞しているという。乱獲も原因のひとつだが、気候変動によって問題はさらに悪化している。”

温暖化の影響は海だけでなく、高山から極地の氷冠まで、地球のすべての氷にも及んでいる。最新レポートによれば、アンデスやヒマラヤといった高山地域では、数十年前と比較して氷河が後退する速度が約30%速まっている。20世紀の間に、世界の海面は平均でおよそ16センチ上昇した。海面上昇の原因はこれまで海の膨張によるとされていた。最新のレポートによると、今では世界の氷の貯蔵庫であるグリーンランドと南極の氷の融解も主な原因になっている。全体として十分な対策が取られたとしても海面は2100年までに40センチ強、そうでなければ80センチ以上上昇する。IPCCのレポートは、南極が重要な臨界点を超えてしまえば、数字はさらに跳ね上がるだろうと指摘している。暖かい海水が西南極の氷床に近づいている。もしもそれが到達すれば、融解に歯止めが利かなくなり、広範囲で氷床の融解につながりかねない。”

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