ユニクロ「無駄ゼロ」への取り組みは道半ば

2020年2月18日付け日本経済新聞掲載された記事より

このHPでは、SDGsにある「つくる責任、つかう責任」について触れてきました。ファーストリテイリング(ユニクロ、GU等)は、その生産・販売規模が大きいこと、SPA(製造と店舗の一体運営)という業態、先進的な取り組みなどで、このHPでも取り上げています。今回は、ユニクロの「つくる責任」についての話です。ユニクロでは、「無駄ゼロ」を目指して生産・販売の効率化を目指していますが、これはユニクロにとってもそう簡単に達成できるテーマではありません。

“ファーストリテイリングの柳井正会長兼社長がデジタル技術を生かした次世代アパレル企業に変身すると宣言したのが2017年。生産や販売に関する取り組みを変え、業界特有の天候に左右されるモデルからの脱却も目指しているが、3年たった今も「次のファーストリテイリング」は道半ばだ。海外での店舗拡大も政治や感染症の拡大というリスクに直面している。”

“製品が山積みされ、値下げを示す「赤札」も目立つ。2019年12月初旬に訪れた都内のユニクロ大型店ではシーズン中にもかかわらず、冬物が値引きされていた。暖冬は販売の重荷だが、需要以上に作り過ぎた感は否めない。2019年8月期末、在庫を示す「棚卸資産」は4105億円。ピークの2018年8月期末より500億円超減ったが、棚卸資産回転月数は以前より長い水準が続き在庫は多い。来店を促すためセールを増やした結果、常連客を中心に定価で買わない動きも見られ、それが再び在庫を増やす悪循環に陥っている。

ユニクロの店頭、2019年12月

ユニクロは、少品種の大量生産で実現した低価格が強みで、他社がまねできない品質の商品をSPA(製造と店舗の一体運営)モデルで大量生産・販売することで急成長してきた。中国を中心に海外展開も積極的に進め、2019年8月期には海外ユニクロ事業の営業利益が国内ユニクロ事業を上回った。売上高を含め名実ともに海外事業はユニクロのけん引役となり、ファーストリテイリングの連結売上高は2兆3000億円まで拡大。直近決算期をドルベースで換算すると、ファーストリテイリングは世界2位のスウェーデンのヘネス・アンド・マウリッツ(H&M)に肉薄する規模になっている。”

ファーストリテーリングの事業拡大
ファーストリテーリングの店舗数

“一方で規模の拡大は負の側面ももたらす。ユニクロの2千店超の店舗網(国内外)に供給するため、1つの商品の生産単位は100万枚に達するものもある。売れなければ在庫の量も多くなり、度重なる値下げをさせざるを得なくなる。柳井氏が「顧客が欲しい商品を素早く作って届ける」と2017年春に事業モデルの変革を発表したのもそのためだ。情報を駆使し、無駄を省く「情報製造小売業」への脱皮は成長持続のための必要条件と考えた。

“次世代アパレルに向けた取り組みは、ユニクロ事業本部や物流拠点がある東京・有明の地名を冠し「有明プロジェクト」と名付けた。主力のユニクロからIT(情報技術)を使い商品企画や生産、物流、店舗を1つにつなぐ構想だ。この2~3年で米グーグルなどと連携し需要予測のほか、効率的な生産や物流システムなど多くの分野で改善に取り組んできた。ただ、有明プロジェクトは3年を経ても完成していない。情報の精度が上がっていないためだ。消費者に受け入れられるトレンドや機能を予測して商品開発したり、需要予測に基づく生産計画の立案をしたりといったことが不十分だ。消費者ニーズも多様化している。蓄積したデータを分析しても、販売予測を正確にすることは難しい状況だ。

“生産でも新たな施策を始めている。委託先企業によると、これまでは納期の約1年前に大まかな発注枚数が届いていた。正式な発注後も、納期は6ヶ月程度で余裕をもって生産できた。2019年は年初から大まかな発注もなかったうえ、正式な発注で要求される納期も従来の半分の3ヶ月に短縮された。発注方針の変更は作り過ぎを防ぎ、人気商品を素早く追加生産する狙いだ。ユニクロは効率生産に向けた過渡期の現象とするが、取引先企業には一時的に負担をかける形になっている。

“商品を大量に作って売る時代は終わり、消費者の多様な嗜好に合った商品を効率よく提供できるかが問われるようになってきた。次世代アパレルの究極の目的は「無駄なものをつくらない、運ばない、売らない」ということだ。客も、取引先も、ユニクロも納得するビジネスモデルの構築に向けて、試行錯誤が続いている。”

この記事を読むと、ユニクロが目指す方向性は理解できます。「デジタル技術を生かした次世代アパレル企業に変身する」こととは、「情報を駆使」し、「無駄なものをつくらない、運ばない、売らない」ことであり、「顧客が欲しい商品を素早く作って届ける」ことです。

「有明プロジェクト」は、ITを使い商品企画や生産、物流、店舗をつなぐ試みです。需要予測のほか、効率的な生産や物流システムなどの分野での改善を進めています。しかし、「情報の精度が上がっていない」ために、「消費者に受け入れられるトレンドや機能を予測して商品開発したり、需要予測に基づく生産計画を立案したりといったことが不十分だ」とあります。

SPAという業態の特徴として、店舗での販売データをリアルタイムで収集・分析し(今、どこで、何が、誰に、どれだけ売れているのか)、その結果を当該シーズンの追加生産や効率的な物流に反映できることがあります。ここまでは私にも理解できます。

更に、入手した現在および過去のデータを基に、商品開発・商品企画・生産計画を見直し、次シーズンの事業計画の精度を上げることを目指しているということでしょうか。いくら現在までの情報(データ)があっても、「消費者に受け入れられるトレンドや機能の予測」や「需要予測」は不確実な未来についての判断です。しかも「ファッション」です。未来を完全に予測することは不可能ですから、「情報の精度が上がっていない」ということは、情報の分析・加工の方法をもう一工夫しないと、期待している程の確度(当然、誤差や一定の乖離はあります)を持った予測になっていないということでしょうか。

このところ話題のAIを駆使すれば、かなりの確度で未来を予測できるようになるのでしょうか???

もしそれが実現すれば、ユニクロは大きな競争力を手にし、市場では無敵になりますよね。その後、競合他社も同じような手法でプレーするようになると、また不確実な状態へ逆戻りするのでしょうか???

生産納期(リードタイム)の短縮は、すべての製造業にとって永遠の課題です。服を作る場合には生地やファスナー、ボタンといった付属資材が必要です。服の場合にはサイズと色目の区別があります。生地を作るには糸が必要です。また色目ごとに染色しなければなりません。糸をつくるには・・・

全てを3か月で行うことはできませんから、ユニクロからの正式発注が出る前に、どこかで誰かがある程度の予測に基づいて(ユニクロからの事前計画ではありません)、材料を準備しておかなければなりません。しかもユニクロの生産量は巨大ですから、サプライチェーンの中で、誰がどれだけの責任を持って準備を進めるのか(誰がリスクをとるのか)を考える必要があります。ユニクロとしては思惑通りの短納期で服の生産ができて、販売機会ロスも少なく、在庫水準も低く抑えられたとしても、そのサプライチェーンを遡るといたるところで不用な中間在庫が発生しているという可能性もあります。ユニクロ程の事業規模であれば、やはりサプライチェーン全体を見渡したうえで、部分的に過大な負荷がかからないような生産体制を検討、構築して欲しいと思います。

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