号外:バッタ大量発生、温暖化が東アフリカにもたらす災厄
私と同年代の方であれば、「蒼茫の大地、滅ぶ」(著者:西村寿行 1978年刊行)という小説の題名の記憶があるかもしれません。中国で発生した飛蝗(トノサマバッタの大群)が日本海を渡り、東北地方を襲って農作物を食べつくし、日本全体が飢餓に見舞われる危機に直面するというパニック・サスペンス小説です。現在は絶版になっているようです。これはあくまで小説の話ですが、バッタの大量発生というのは実在する自然災害です。
2020年2月25日付けNational Geographic電子版に掲載された記事より、
“今、東アフリカでバッタの大量発生による被害「蝗害(こうがい)」が広がり、数千万人の食糧供給が脅かされている。ひとつの都市を覆い尽くすほどに広がったバッタの群れが作物や牧草地に襲いかかり、ものの数時間ですべてを食い尽くしている。バッタの大量発生はこれまでに7ヶ国に拡大した。近年にない規模だ。”
“このバッタはサバクトビバッタという。アフリカと中東の乾燥した地域に生息していて、大雨が降って植物が繁茂すると大発生する。東アフリカとアラビア半島では、過去2年間にサイクロンに複数回見舞われるなど、異常に雨の多い天気が続いた。専門家は、この天気が蝗害の主な原因とみている。”
“一部の専門家は、今回の蝗害はこれから起こる大きな変化の前触れかもしれないと指摘する。海面温度の上昇は嵐の頻度とエネルギーを高め、気候変動は今回の蝗害を引き起こしたような海洋条件を定着させるからだ。”
“国連食糧農業機関(FAO)によると、サバクトビバッタの大量発生のきっかけは2018年5月のサイクロン「メクヌ」だった。このサイクロンはアラビア半島南部の広大なルブアルハリ砂漠に雨を降らせ、砂丘の間に多くの一時的な湖を出現させた。こうした場所でサバクトビバッタがさかんに繁殖して最初の大発生が起きたと見られる。同年10月にはアラビア海中部でサイクロン「ルバン」が発生して西に進み、同地域のイエメンとオマーンの国境付近に雨を降らせた。”
“サバクトビバッタの寿命は約3ヶ月で、その間に繁殖する。繁殖の条件が良ければ、次の世代のバッタは20倍にも増える。つまりサバクトビバッタは短期間のうちに急激に増加するのだ。2018年の2つのサイクロンによって、わずか9ヶ月の間に大発生が3度起こり、アラビア半島に生息するバッタはざっと8000倍に増えた。増えすぎたバッタの群れは移動を始めた。2019年の夏までに、それは紅海とアデン湾を飛び越えてエチオピアとソマリアに渡り、その後もう一度繁殖した。不運はこれで終わらなかった。2019年10月に東アフリカの広い範囲で激しい雨が降り、さらに12月には季節外れのサイクロンがソマリアに上陸したのだ。おかげでバッタはさらに繁殖した。”
“バッタの群れは繁殖を続けながら新たな土地に襲いかかっていった。12月末には最初の群れがケニアに到達。猛スピードで北部から中央部へと移動していった。2020年の1月にはケニアで、過去70年で最悪規模の蝗害が発生した。ジブチとエリトリアでも蝗害が始まり、2月9日にはウガンダ北東部とタンザニア北部にバッタが到達しはじめた。”
“最悪の大発生はこれから起こるのかもしれない。秋に雨が降ったことで少なくとも2つの世代のバッタが大発生できるようになった。今年の6月にはサバクトビバッタの個体数が現在の400倍に増え、もともと飢餓に脅かされているこの地域の作物や牧草地に壊滅的な打撃をもたらす恐れがあると危惧されている。東アフリカでは、ほとんどの作物は最初の雨期である3月か4月に植えつけられる。農夫が作物を植えようとする時期が、新しい世代のバッタが発生する時期と一致してしまう可能性がある。”
何とも恐ろしい話です。「ひとつの都市を覆い尽くすほどに広がったバッタの群れが作物や牧草地に襲いかかり、ものの数時間ですべてを食い尽くしている。」様子は、私たちの想像の範囲を完全に超えています。また改めて思うことですが、自然は連鎖しています。気候変動が各地の海水温を上昇させ、サイクロンの発生や豪雨の頻度が高まっています。それが昆虫(サバクトビバッタ)の異常、大量発生につながり、その昆虫によって作物や牧草地が壊滅し、そして、その地域の住民が飢饉に直面する。これは小説の話ではなく、実際に東アフリカ諸国で起きている現実です。1匹のバッタは小さく、人にとって脅威ではありませんが、冒頭に触れた小説では、幅10㎞、長さ20㎞、総重量1億9500万トンのバッタの群れが想定されていました。そのような規模になると、もう手の施しようがないように思います。何とか、次の作付けまでに駆除されることを祈るばかりです。これも気候変動の影響のひとつです。直接的な影響だけでなく、自然は連鎖して間接的にも大きな災厄をもたらすことがあります。地球温暖化、気候変動を抑えなければ、私たちの生活環境は色々な形で脅かされることになってしまいます。