東レ、100%植物由来の合成繊維(ポリエステル)

2020年2月21日付け日本経済新聞電子版に掲載された記事より、

“東レは衣料などに広く使われているポリエステル繊維について、世界初となる100%植物由来の製品を2020年代前半にも量産する。

東レの植物由来ポリエステル繊維

“ポリエステル繊維は、人工的に化学物質を結び付けてつくる合成繊維の一種だ。世界の化学繊維生産量の8割を占める。大半が石油からできており、植物に切り替われば脱炭素の効果は大きい。東レは完全植物由来のポリエステル繊維の試作に成功した。バイオ燃料の米スタートアップ企業、バイレント(ウィスコンシン州)との共同開発だ。”

“一般的なポリエステル繊維はテレフタル酸とエチレングリコールから作られ、使う割合は7対3となる。どちらの原料も、従来は石油からつくられていた。エチレングリコールの方については、すでにサトウキビが利用されて量産化されている。インドのインディアグリコールズなどが供給し、東レなど複数の繊維大手が部分植物由来の繊維として販売している。もうひとつのテレフタル酸では植物の利用が進んでこなかったが、今回、植物の応用ノウハウを持つバイレントの技術を活用した。サトウキビやトウモロコシのうち、食用に回らない部分を使うもよう。”

脱炭素の効果を生む理由は2つある。石油を使わないことと、原料になる植物が光合成で成長する際にCO2を吸収していることだ。耐久性や加工のしやすさは石油でできた製品と同程度という。発売当初の価格は石油のみを使った繊維よりも割高になるが、両社で量産技術も開発することでコストを下げていく方針だ。”

“開発に踏み出す背景には消費者や顧客企業の意識の変化がある。欧米の若者を中心にエシカル消費が拡大し、割高でも受け入れられ始めた。環境対応の取り組みなどで企業を選別する「ESG投資」によるマネーの拡大もアパレル企業の背中を押している。スウェーデンのヘネス・アンド・マウリッツ(H&M)は2030年までに、すべての素材をリサイクル品か環境に配慮した持続可能な調達に切り替えると発表した。ドイツのアディダスは2024年までにリサイクル素材の使用への完全移行を目指している。東レは消費者や小売の変化を商機とみる。完全に植物でできた繊維を投入するなどして、環境配慮型製品の供給量を2030年度に2013年度の4倍にする計画だ。

世界人口の増加に伴って、食糧増産と競合しない形で繊維製品の増産を進めなければならないことについては、このHPでも取り上げました。

これからのファッション産業:増加する需要とバイオマス由来生分解性合成繊維(私見、概論)②>の項を参照

天然繊維の増産は困難と思われますから、需要増加分については合成繊維で対応することになります。ただサステイナブルな形での増産が求められます。この記事で取り上げられている東レの開発は、植物の非可食部分を使って(食糧増産と競合せずに)100%植物由来の合成繊維(ポリエステル)を生産する技術で、今後の繊維製品増産において有効な技術です。

東レのような素材メーカーが環境配素材の開発に注力する背景には、彼らの顧客であるアパレル企業や、さらにその先の消費者において環境意識が高まってきていることがあります。またESG投資に見られるような投資家の投資選択基準の変化も大きく影響しています。新技術、新素材を活用して、H&Mやアディダスのように環境に配慮したアパレル製品が増えてゆくことが、ファッション産業がサステイナブルに継続してゆくために必要なことだと思います。

100%植物由来であればカーボンニュートラルということになりますが、CO2の総排出量を削減しカーボンネガティブを目指してゆくためには、カーボンニュートラルな素材であってもリサイクルしてゆくことが大切です。100%植物由来のポリエステルの場合も、リサイクルについては従来のポリエステルと同様の課題があります。先ずは新素材の開発と量産化が必要ですが、次のステップとしては、それをリサイクルする技術やシステムを考えてゆかねばならないと思います。100%植物由来であっても生分解性を備えているわけではありません。用途や必要性に応じて、100%植物由来合成繊維に生分解性を付与することも視野に入れて、開発が継続されることに期待しています。

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