「循環経済ビジョン2020」が目指す、環境と経済の好循環とは?

皆さんは「サーキュラー・エコノミー」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?これまでの私たちの経済活動は、消費された資源をリサイクル・再利用することなく直線的に廃棄してしまうため、直線的(Linear)にモノが流れる経済ということでリニア・エコノミー(Linear Economy)とも呼ばれます。その結果として、私たちの社会では資源やエネルギーの不足、地球温暖化、廃棄物処理などの環境問題が顕在化しています。そうした問題の緩和・解決ためには、これまでのリニア・エコノミーをより環境への負荷が少ないものへと転換することが必要です。その一つとして、資源や製品を経済活動の様々な段階(生産・消費・廃棄など)で円を描くように循環(Circular)させることで、資源やエネルギーの消費、廃棄物の発生を少なくすると同時に、その循環の過程でも価値を産み出すことによって、経済成長と環境負荷の削減の両立を目指そうという経済概念が提案されています。これがサーキュラー・エコノミー(Circular Economy)です。下記の記事は経済活動全般について述べたものですが、サステイナブルな産業へ移行することが求められているファッション産業にも大変参考になる提案が多々含まれています。

2020年6月2日付けSustainable Brand Japanに掲載された記事より、

経済産業省「循環経済ビジョン2020」

サーキュラー・エコノミー(循環経済)と呼ばれる新たな経済のあり方が世界的な関心を集めている。限られた資源を繰り返し利用することで、資源循環と経済成長の両立を目指すこの概念は、すでにEUが2015年に政策を打ち出し、欧州で大きな流れとなっている。日本でも、経済産業省が2020年5月22日、今後の循環経済政策が目指すべき方向性を示す「循環経済ビジョン2020」を発表した。ただ同ビジョンは理念を明確に定めているものの、欧州に比べて目標設定があいまいで循環経済を強力に進める具体策が乏しく、政策面で課題を残していると言えそうだ。

1999年に制定した日本の「循環経済ビジョン」は、廃棄物やリサイクル対策が中心となり、いわゆる3Rの取り組みを最大化することを狙ったものだ。この取り組みの結果、一般廃棄物が減少し、家電、自動車、容器なごのリサイクル率も高まるという一定の成果をあげた。しかし今回の「循環経済ビジョン2020」は、前回の環境活動的なものから、経済活動としての循環経済へのシフトを明確に打ち出した。地球温暖化や海洋プラスティックごみ問題などの地球規模の課題を背景に、従来の大量生産・大量消費・大量廃棄型の線形経済モデル(リニア・エコノミー)から循環性の高いビジネスへの転換を訴える。”

“その対応策のひとつが「動脈企業」が「静脈企業」と連携して資源を最適な形で再使用、再生利用することだ。つまり、資源を利用して生産、販売する「動脈企業」が使用済製品や素材などを再資源化して動脈連鎖に再び投入する「静脈企業」と連動して循環型経済を推し進めるべきだという内容だ。具体的には①リース、シェアリング、サブスクリプションなどを通じた製品の所有権を維持した形での流通・回収や、②使用済製品の自主回収や静脈企業と連携したリサイクルルートの確立などを通じ、ライフサイクルを通じて資源循環に取り組むこと、とある。

“この他、人工知能(AI)を活用した廃棄物の高度餞別や、ESG投資(Environment, Social, Governance)による好循環の創出、循環性能を持つ製品へのラベリング(見える化)などが提案されているものの、全体的に国内外の現状分析に力点がおかれ、ビジョンを強力に進める具体策が乏しいという印象は否めない。

“これに対し同ビジョンでも示されているように、循環経済の震源地となっている欧州では具体策が豊富に示されている。例えば、脱プラスティックに関する施策では、2021年までに使い捨てプラスティック製品の使用禁止やリサイクルプラスティックの飲料ペットボトルへの使用目標、リサイクルプラスティックを使用する量的目標などが示され、企業や業界団体に自主的な誓約の提出を呼びかけている。”

“2020年3月に新欧州委員会が公表した「サーキュラー・エコノミー・アクションプラン」では、特に持続可能な製品への政策が明確に示されている。製品には再利用や修理、リサイクルが容易であること、可能な限りリサイクルされた材料を利用すること、長寿命であることが求められ、使い捨て製品などは制限される。また修理や製品寿命を延ばすために消費者に「修理の権利」を与えるなど製品のライフサイクル全体に対する循環経済の取り組みが強化された。その内容はより具体的で、たとえば冷蔵庫であれば「修理業者からスペアパーツ提供の依頼があった場合は15日以内に提供することを義務化する」など、製品寿命を延ばすための具体策が盛り込まれるほどだ。”

持続可能な、ないしは循環経済における消費行動の基本は、「良い製品をできるだけ長く、大切に使う」ということです。そうすることで資源の消費と廃棄物の発生を抑制し、使い慣れた製品に愛着を覚えることで、豊かな生活を送ることもできます。欧州のアクションプランには、製品寿命を延ばすために消費者に「修理の権利」を与えることまで含まれていると聞くと、その本気度と具体性に感銘を受けます。皆さんも修理すればまだまだ使える製品なのに、修理に必要なパーツが手に入らないとか、修理してくれる場所(技術)が見つからないとかの理由であきらめた経験があるのではないでしょうか。とても残念で「もったいない」ことだと思います。振り返って日本の「循環経済ビジョン2020」ですが、「理念を明確に定めているものの、全体的に国内外の現状分析に力点がおかれ、ビジョンを強力に進める具体策が乏しいという印象は否めない」という指摘は残念なことです。私たちが循環経済に移行しなければならないことは、誰の目にも明らかです。さらに踏み込んで、日本を変えてゆく具体策が求められています。

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