新型コロナウイルス感染症の影響:アパレル、自動車、ビール業界など

2020年6月13日付け日本経済新聞電子版に掲載された記事より、

“経済活動が新型コロナウイルスの感染防止から再開に向かうなか、過剰な在庫が企業の重荷になりつつある。季節品を売り逃がしたアパレル各社は、財務リスクの拡大を回避するため今後の仕入れを抑える。在庫が解消しなければ、資金繰りの改善が遅れて生産などの本格回復にも響く。

紳士服のAOKIはネット通販で最大7割引きの大幅値引きを実施中だ。入社式のシーズンは最もスーツが売れる時期だが、新型コロナウイルス感染症の影響で開催中止が相次ぎ、需要がほぼ蒸発したためだ。セレクトショップのユナイテッドアローズもネット通販で最大7割引きのセールをしている。小売店の営業自粛などで春夏物の衣料品の販売機会を逃し、在庫は積み上がっている。販売機会が限られるアパレルは評価損などの形で業績に響きやすい。”

“感染症の影響が本格化した4月以降の各社の在庫水準は公表されていないが、三陽商会の場合、2020年2月末の在庫は約137億円で、過剰在庫を処分した結果、2019年12月末より8%余り減った。一方、5月の売上高は前年同月に比べ7割も落ち込んだ。ワールドも5月の売上高が6割減で、他のアパレル各社も同様の下落だ。各社は消費回復に時間がかかるとみて、ネット通販や再開した店舗での特売で春夏物の処分を急ぎつつ、秋冬の仕入れも減らす。売り上げの大幅減で資金繰りも厳しい。欠品による販売機会損失よりも、消費低迷が長引き在庫が積み上がり、損失が生じるリスク回避を優先する。状況は海外も同じだ。ファストファッション世界最大手で「ZARA」などを運営するインディテックス(スペイン)は2020年1月期決算でその後の販売減を織り込み、300億円超の在庫引当金を早々に計上した。

消費財在庫の削減

“自動車では、中古車在庫が新車販売の波乱要因になる可能性がある。欧米やアフリカなど海外の入港制限などのために中古車は輸出が停滞している。中古車輸出大手のエスビーティー(横浜市)は5月の輸出台数が前年同月比で5割減になった。輸出待ちの在庫が5月末で約1万4千台あり、4千台ほど在庫過多の状態だという。中古車流通の場であるオークションで輸出需要は4割を占め、相場への影響が大きい。落札価格が下がれば、仕入れ値に当たる一般消費者からの下取り価格の下押し圧力になる。中古車情報のユーストカードットコム(神奈川県藤沢市)によると、輸出がままならず5月末時点で中古車オークションの成約率は5割程度。平均落札価格も約57万円と例年より1割ほど低かった。5月の国内新車販売は前年同月比45%減にとどまった。中古車相場が低調なままだと、新車販売の回復が遅れ、自動車工場の生産調整が長引くことになりかねない。

“経済再開に備えて先手を打ったのが、ビール大手4社だ。3、4月に卸を通じ酒販店や飲食店に納めたビールの返品に応じている。外出自粛などでビールの販売量自体も減っていた。アサヒビールの販売量は飲食店の営業自粛などが響き、スーパードライの販売実績は5月に前年同月比で35%減となり、特に飲食店向けの瓶が同6割、たるで7割減った。通常、ビールは流通や店頭に2~3週間程度の市中在庫があるとされる。ビールが消費されずに市中に残ると、鮮度が落ちるうえにメーカーの新たな生産にも影響が出る。

“在庫の保管にも苦労が伴う。国内では大型倉庫は需給がひっ迫。不動産情報サービス大手CBRE(東京都千代田区)によると、首都圏の賃貸型の大型物流施設の空室率は、1~3月期で2019年10~12月期比0.6ポイント低下してわずか0.5%となった。2004年の調査開始から、最も低くなっている。”

「4月、5月の国内消費は全体で何%低下した」というようなマクロの経済情報を聞いても、なかなかピンときませんが、上記のように業界に即した生々しい情報に触れると、感染症が経済に与えている影響を、ひしひしと感じることができます。特に、旅行・宿泊などの観光業、飲食業、依然として自粛が続くスポーツやイベント関係、文化的催しなどでの影響は極めて大きいでしょうし、短期的に回復することも難しいと思われます。私たちの生活に直結する経済的な「影響」は、これからますます顕在化してくるのだと思われます。それぞれの業界で、生き残り、再生のために色々な工夫をされ、努力をされていることと思いますが、政府による復興支援も迅速に、丁寧に実施され、感染症後の日常につながってゆくことを願ってやみません。

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