オンワード+ZOZOTOWN

2020年7月12日付け日本経済新聞電子版に掲載された記事より、

オンワードHDとZOZOは8月下旬から、ZOZOの衣料品通販サイト「ZOZOTOWN」で、オーダーメイドのジャケットやワンピースなどを製造販売する新サービスを始める。ZOZOが持つ約100万件の体形データとオンワードHDの製造技術を組み合わせ、10日~2週間の短納期で顧客に届ける。

“2018年末に、オンワードHDはZOZOTOWNから全ブランドを引き上げ、取引を打ち切った経緯がある。きっかけはZOZOが2018年12月に導入した有料会員向けの割引サービス「ZOZOARIGATOメンバーシップ」だ。出店していたアパレル各社は「ブランド価値を毀損する」と反発し、オンワードHDやTSIホールディングスが一時撤退するなど有力企業の離反を招いた。結局ZOZOはわずか半年で同サービスを終了。その後2019年秋にヤフー親会社のZホールディングスの傘下に入った。オンワードHDはその後も再出店を見合わせていたが、今回の提携に合わせ8月末から「Jプレス」など11ブランドを「ZOZOTOWN」で扱う。”

2社の再接近を後押ししたのがアパレル業界の構造不況と新型コロナウイルス感染症だ。アパレル各社は長年にわたり過剰在庫、オーバーストア、セール依存という「三重苦」に直面してきた。季節ごとに大量の新作商品を投入し、夏冬のセールで投げ売りし最終的に大量に廃棄してきた。こうした仕組みに加え、各社は全国に過剰な店舗網を構え販売を競ってきた。その高コストで収益性の低いビジネスモデルを新型コロナウイルス感染症が直撃した。約2ヶ月にわたる長期休業で今春の売上は激減。5月中旬にはレナウンが民事再生手続きに追い込まれた。”

オンワード店舗

“オンワードHDも難局のただ中にある。2020年3~5月期の連結売上高は前年同期比35%減で、連結最終損益は24億円の赤字(前年同期は16億円の黒字)。2019~20年度は計1400店規模を閉鎖し、2年間で店舗数はほぼ半減の1600店舗規模になる。同社がこの状況を奇貨として目指すのが「メーカー機能を持ったデジタル流通企業」だ。自社の通販サイトでの販売拡大や自動化工場でのオーダーメイド事業、販売員のスキルを生かしたデジタル接客など、デジタル技術を使い企業のあり方を変えるデジタルトランスフォーメーション(DX)の取り組みを通じ、早期に売上高に占めるEC比率を5割に引き上げることを目指す。”

店舗休業の影響も大きかったが、2020年3~5月期のEC比率は45%で、関連売上高は前年同期比5割増えた。今後、実店舗が営業を再開する中でも、この路線を一段と推進することが重要課題となる。約800万人の年間利用客数を誇り、ECのビッグデータを持つZOZOとの提携は必要と判断したもようだ。一方のZOZOもアマゾンジャパンや楽天など、ファッション分野を強化する総合EC大手との競争が年々激化している。勝ち残りのためには、従来強みとしてきたアパレル企業との協業による独自のサービスや品ぞろえの強化は不可欠だ。”

「そもそもファッション衣料はECで販売・購入する商品になったのか」というのが私の率直な疑問です。衣料品通販サイトであるZOZOTOWNの年間利用客数が約800万人ということは、約800万人の消費者がZOZOTOWNで衣料品を購入しているということです。ECでの衣料品販売だけではなく、ECでの衣料品レンタルサービスもあります。実用衣料でECが拡大してゆくことは私にも理解できますが、本来、感性価値が重要なファッション衣料でECが急速に普及してゆくことには、何となく違和感を持ってしまいます。IT技術を駆使して、オーダーメイドの衣料品を短納期で妥当な価格帯で消費者に届けるビジネスモデルは、過剰生産や過剰在庫の弊害を避け、資源を有効に使い、顧客満足度を向上させる手段になるでしょう。いずれの場合も、衣料品を「見て、触って、試して買う」ことで得られる満足感や納得性を、IT技術でどのように担保してゆくのかが課題だと思います。ECで購入した衣料品が手元に届いたときに、自分が購入したと思っていたものとの違いが大きければ、消費者はがっかりしてしまうことになります。

感染症の影響で外出や買い物を控える新しい生活様式が、消費財の販売・購入という活動に与えたインパクトは決して小さくありません。そしてこの変化は今後も不可逆的に継続すると考えられます。しかしアパレル業界が抱える構造的問題には感染症は関係ありません(感染症が問題の顕在化を促進した部分はありますが)。デジタル技術を活用することで、色々な局面で人と人との接触を減らすことができます。新しい生活様式へ移行する中で、何がどの程度デジタル技術によって代替されるのか、逆に何がどの程度リアルな「人と人の接触が必要な活動」として残るのか、非常に興味深いところです。アパレル業界の再生のためにはデジタル技術の活用は必要なことと思います。しかし、ファッションがファッションである意味を見失うと、とてもつまらない商品ばかりが市場に出回ることになるのではと懸念しています。私が単に古い世代の人間というだけのことでしょうか。

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