号外:感染症後のより良い世界は、サステイナブルな企業がつくる
ご一読ください。柔らかな語り口ですが、コロナ・パンデミックに翻弄されている今だからこそ、私たちが考えなければいけないことが指摘されています。
2020年7月15付けSustainable Brands Japanに掲載された足立直樹氏(株式会社レスポンスアビリティー代表取締役)のコラムより、
“私たちは1ヶ月半にわたる緊急事態宣言と長い自粛から、元の経済活動にそろりそろりと戻りつつあります。ようやくこれで外出も、出勤もできる、やれやれという気持ちの方も多いと思います。正直に言えば、私も同じ思いです。早く元どおりの自由な生活をしたいという気持ちは否定できません。しかし、理性的に考えれば、むしろこれからが本番です。”
“今回のコロナ・パンデミックで私たちの価値観は根本から変化したように思われます。このまま元の生活が戻ってくるとはほとんどの方が考えてはいないようです。経済への影響は、むしろこれから大きくなりそうです。突然職を失ったり、職場がなくなってしまったという方も少なくありません。こうした方々をどう支えていくのか? そして多くの企業人もこれまでとはまったく違った形でビジネスを行わなくてはならず、大きな戸惑いを感じていることでしょう。”
“ワクチンや薬が開発され、私たちが「元の世界」に戻れるまでには数年かかるとの予測もあります。けれど、そもそも私たちは本当に元の世界に戻れるのでしょうか? 戻っても良いのでしょうか? コロナ・パンデミックによって世界の経済が大きく制限され、はからずも世界中できれいな青空がよみがえり、川や海の水は透明になり、今までは厚いスモッグに隠れて見えなかった遠くの山々が見えるようになったところもあるそうです。そんなニュースをいくつも聞くと、いかに私たちの経済活動が地球に大きな負荷をかけていたかを実感することができます。本当に元に戻していいのでしょうか?”
“海外の工場が閉鎖されたことによりサプライチェーンが寸断され、日常生活はおろか、医療活動に必要なものまで入手が難しくなるという事態にも直面しました。経済効率を求めて、さらに言えば目の前の利益を第一に進めてきた効率化が、私たちの社会をいかに脆弱なものにしたのか。感染症はそのことを私たちにまざまざと見せつけました。サステイナビリティにまつわる様々な問題が、一気に可視化されたと言ってもいいでしょう。”
“もちろんこのままパンデミックが収束してくれればそれに越したことはないのですが、世界的に見ればまだ感染者数は拡大しています。日本でも再び感染者数が増えつつあります。そして、今後さらに大きな第2波、第3波が襲って来ないとも限りません。もっと言えば、今回の新型コロナウイルス感染症以外のパンデミックだって起こり得るのです。こうしたことを考えると、私たちは緊急事態宣言の解除を単純に喜ぶわけにはいきません。社会と経済をよりサステイナブルに、そしてレジリエント(回復力があるように)に、変革してゆく必要があることは間違いありません。”
“欧州はそのために既にグリーン・リカバリーという考え方を打ち出し、3つの分野に集中して大規模な投資を行うことで社会をサステイナブルかつレジリエントにすると宣言しています。気候中立な経済への移行、生物多様性の保護、農業食糧システムの変革の3分野です。官民が同じ方向を目指して一気に動き出そうとしており、欧州は間違いなく、アップデートされた社会へと進化していくことでしょう。”
“私たちはどうしたらいいのでしょうか? 残念ながらこの数か月の様子を見ていると、現在の日本の政府の力だけではそのような方向転換は難しいと感じています。無計画にその場限りの対応を続けていては、次のパンデミック襲来でより大きな被害を受けるのはもちろん、どんどんと変化してゆく他の国々から大きな遅れをとってしまうでしょう。であれば、私たち企業が中心になって、経済はもちろん社会をよりサステイナブルかつレジリエントにしてゆく必要があります。そして、企業にはその力があると私は信じています。
“しかし、パンデミックの混乱をただ生き残ろうと、考えもなく闇雲にもがいても、大変な苦労をするばかりか、生き残ることすらできないかもしれません。何とか潰れずに済んだとしても、辿り着いた先は大きな問題を抱えた世界かもしれません。一方で、好ましい着地点を見据えて十分な見通しを確保し、そこに向かって戦略的に、そして多くの仲間と連携して進めば、今よりサステイナブルでレジリエントな、つまり安心して暮らせる社会に到達することができるでしょう。”
“しかも一旦どちらかに向けて進み始めたら、そして進めば進むほど、別の方向に軌道修正するのは困難になってゆきます。そう、私たちはいま、分水嶺に立っているのです。何も考えずに歩き始めるのではなく、状況をよく把握し、目指すべき方向を見定め、その上でどう進むのが良いかをじっくり考える必要があります。より具体的に言えば、いま私たちは以下のようなことをしっかりと考える必要があるのです。
①今、社会は何を必要としており、これから、どのように変化してゆくのか?
②これから私たちはどのような社会を目指すべきなのか?
③好ましい変化を起こすためには、個人は、企業はどのような貢献ができるのか?すべきなのか?
「好ましい着地点を見据えて十分な見通しを確保し、そこに向かって戦略的に、そして多くの仲間と連携して進む」ことは、決して簡単なことではありません。しかし、感染症のパンデミックという世界的な危機に直面し、それを乗り越えて進むためには必要なことだと思います。足立氏が、今考えなければならないこととして挙げられた3つの課題は、どれもそう簡単に答えられる課題ではありません。しかし私も、是非とも考えてみたいと思います。何も考えずにやり過ごそうとすることは、今、もっとも危険なことだと思います。