号外:バッタ、豚熱、大洪水・・・飽食の終わりが迫っている

これまでにも、このHPで何度か「食」の問題を取り上げてきました。気候変動や感染症の流行は、私たちが日々何気なく口にしている食糧の供給にも影響を与えます。いつでも必要な量の食料が確保できると考えるのは、楽観的過ぎるのかもしれません。農林水産省が発表した2019年の日本のカロリーベース食料自給率は38%(!)です。2030年の同目標を45%としています。私たちが必要とする食料の半分も自給できていないのです。食料のサプライチェーンと食糧の自給率について、もう少し注意を払う必要があると思います。

バッタ大量発生、温暖化が東アフリカにもたらす災厄>の項を参照ください。

2020年11月9日付け日経ビジネス電子版に掲載された記事より、

「すぐに行動を起こさなければ何億人もの子供と大人に長期的に影響を与える世界的な食糧危機が差し迫っている」。国連のアントニオ・グテーレス事務総長は6月、世界に向けてメッセージを発信した。新型コロナウイルス感染症の影響で景気の悪化が続き、8億2000万人以上とされる飢餓人口が急増する可能性を危惧した。”

“食糧危機と言われても切迫感はなく、いつも聞いていることのように感じるのではないだろうか。これまでにも国連をはじめとする国際機関は飢餓の撲滅と食料の安定供給を訴え続けてきた。それでも日本の家庭の食卓は豊かだから、日本人には実感が湧かない。先進国はどこも同じだ。アフリカの一部の地域での話で、自分とは関係ないと思い込んでいる。”

“だが、今回のグテーレス事務総長の声明はこれまでとは異なるものだった。飢餓に瀕した国の実態に懸念を示す一方で「食料が豊富な国でも、サプライチェーンに混乱が生じるリスクがある」と言及したのだ。先進国の多くの人が好きなものを好きなだけ食べられる飽食の時代。新型コロナウイルス感染症の余波で、その終わりが近づいているのだろうか。”

世界の三大穀物

食料自給率の低い国が安定調達への懸念を高めている。農業大国の自国優先の動きが見られるからだ。ロシアは、世界の輸出量の約2割を占める小麦のほか、ライ麦、大麦、トウモロコシについて4~6月の輸出の上限を700万トンとする割当制を導入し、輸出量を制限した。国内の穀物価格上昇を抑えることが目的で、同じく小麦輸出大国であるウクライナも輸出量の上限を設定。他国でも鶏卵や大豆などで輸出制限の動きが広まった。”

“世界の穀物生産量が8年連続の豊作となる中で、輸出制限の規模はいずれも限定的。食料供給網を直ちに脅かすようなものではない。しかし、新型コロナウイルス感染症の拡大による輸送力の減少と相まって、一連の動きは穀物の生産が一部の国に偏っている実態を再認識させるのには十分だった。輸出大国のさじ加減一つで、食糧不足が起こり得るという漠然とした不安を、日本を含む先進国にも与えた。”

“今年は年初から、世界的な食糧危機を連想させる自然現象が伝わっている。アフリカから南アジアにかけてのバッタの大発生。過去をさかのぼると旧約聖書の出エジプト記でもバッタによる農作物への被害、蝗害(こうがい)は「十の災い」の1つに挙げられている。それが今年、ケニアでは過去70年間で最悪、インドでも30年ぶりと言われるほど大規模に発生した。2年前の異常気象がバッタの大発生を呼び込んだ。アラビア半島南部の砂漠でサイクロンが大雨をもたらし、餌となる植物が繁殖。これが大量発生のきっかけになっている。”

“猛威を振るうのはサバクトビバッタという5cmほどのバッタだ。成虫4万匹を含んだ1km2の群れは、たった1日で3万5000人分の小麦やトウモロコシなどを食い尽くすとされる。新型コロナウイルス感染症による駆除物資や専門家の移動の停滞も重なって対策が後手となり、生息範囲を広げた。国連食糧農業機関(FAO)は2020年に東アフリカの最大2500万人が食糧不足に見舞われると試算する。南米ではミナミアメリカバッタ、中国北東部ではクルマバッタモドキという別の種類のバッタが同時多発的に大量発生しており、各地の穀物供給網を脅かしている。”

“今年は深刻な天災も重なっている。中国では今夏、長江、黄河、淮河(わいが)、太湖など多数の河川や湖で大雨による洪水が発生。穀倉地帯が浸水するなどし、経済損失は日本円換算で3兆3000億円を超えたともされる。中国では2018年以降、致死率の高いアフリカ豚熱と呼ばれる伝染病が流行し、豚の飼育数は10年前の約4億6000万頭から、やく3億4000万頭(2020年6月時点)まで減少した。現地の豚肉価格は従来の倍近くまで上昇しており、感染はアジア各国へも広がっている。新型コロナウイルス感染症に見舞われる一方、世界の食糧事情を脅かすような深刻な現象が次々に発生している。

“問題はこうした非常事態が今年だけにとどまらない可能性が高いことだ。国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は温暖化が進むことによって豪雨や洪水、熱波などの増加が食糧供給へのリスクを高めると指摘。2050年には穀物価格が中央値で7.6%上昇する試算もしている。”

10月9日、ノーベル賞委員会は、国連世界食糧計画(WFP)にノーベル平和賞を授与すると発表した。紛争地域への食糧支援や途上国の学校への給食提供などを評価した。食糧問題を扱う機関のノーベル平和賞受賞は意外感が強かった。イデオロギーが絡むノーベル平和賞は、授与が妥当だったのかという論争が起きやすい。WFPは慈善活動にいそしんでおり、受賞に異論をはさむ余地は少ないだろう。ノーベル賞委員会はコロナ禍のさなかにある今、食糧問題への意識を高めるよう世界に訴えかけたと言える。

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