雑感:これからのファッション産業について

新型コロナウイルス感染症は私たちの生活スタイルを大きく変え、世界各国の経済に大きなダメージを与えています。足元では、日本、世界各地で感染が再拡大しており、感染拡大を抑え込んで人命を守ることが喫緊の課題です。その一方で、今回の感染症から世界が立ち直るための政策議論も進んでいます。欧州(EU)では、感染症からの復興は地球温暖化対策を軸にして成し遂げられなければならない(グリーンリカバリー)として、地球環境を維持・改善する技術革新を通して産業競争力を強化し、経済復興、経済成長を実現する計画を進めています。日本でも、「2050年までには温暖化ガスの排出を実質ゼロにすること」を宣言し、地球温暖化対策(脱炭素)とデジタル化推進を経済復興の中心に据えた政府方針が示されました。

このような環境下で、今後のファッション産業がどのようにしてサステイナブルな産業として復活してゆくのかを熟慮し、計画し、実践してゆかねばなりません。しかし残念ながら、現時点では、ファッション産業は現在の苦境をどのようにして乗り越え、生き残ってゆくのかという短期的な対応に追われ、なかなか中長期的なビジョンの構築・提示にまでは至っていません。このところファッション産業関係で伝わってくるニュースは、業績不振とその対応策に関するものが多く、将来に向けた環境対応を始めとする積極的な構造転換についての話題はあまり聞こえてきません。

繊維素材のうち天然繊維はまさに自然の産物であり、その生産は気候変動の影響を大きく受けます。合成繊維のほとんどは、これまで石油を粗原料としてきましたから、世界中での脱炭素の流れの中で、大きな転換期を迎えています。バイオ(あるいは植物)由来へ切り替えることは可能なのか、あるいは産業としてCO2排出(製造段階および廃棄段階)を制御(削減と回収、貯留と再利用)することは可能なのかといった議論が必要です。また世界中に広がったサプライチェーンを整理して、無駄や環境負荷を低減する供給体制にできないかということも考えなければなりません。このように大きな、そして難易度の高い課題については、素材企業であれアパレル企業であれ、1社だけでは解決できませんし、1社だけが対応してもあまり意味がありません。世界のファッション産業全体で取り組んでゆく必要がありますが、個々のファッション関連企業の規模は決して大きくはなく、なかなか連携して課題に対応するような企業連合を組むことも進んでいません。

感染症の影響下では、衣料品は不要不急な製品(タンス在庫が溢れている)と言われていますが、本来、衣料品は私たちの生活必需品です。産業革命期の綿紡績・織布の機械化以降、繊維産業は大規模化、グローバル化してきました。しかし今では、ファッション産業は環境負荷の高い産業と言われ、将来的にサステイナブルな産業として再構築し、生活必需品を供給し続けることが求められています。世界の人口は増え続けています。その人々が着るための衣料品が必要です。

ひとつの考え方として、

ダウンサイジング:大量生産→大量販売→大量廃棄からの脱却、生産・販売過程での無駄の排除

ローカル化:消費者の近くで生産することによって物流とリードタイムを短縮(環境負荷の低減)、単品大量生産ではなくカスタマイズした生産(在庫、売れ残り等の無駄の排除)

良質な製品を大切に長く使うライフスタイルへの転換

を検討する余地はあると思います。一昔前の生産体制に戻すような側面もありますが、現在の最新テクノロジーと組み合わせることによって、顧客満足度の高い製品(カスタマイズ、高品質、短納期、合理的な価格)の供給が可能になると思います。ある程度のコストアップは避けられないでしょう。しかし、「良質な製品を大切に長く使うライフスタイル」へ転換することによって、ある程度は吸収可能と思います。また製品を長く使うためには、修理する技術やサービスの提供も必要です。

近年、衣料品の価格は随分安くなりました。グローバルに(製造コストが安い地域で)単品大量生産した結果なのですが、このために市場の製品が同質化し(同じような製品が、同じような価格帯で並ぶ)、膨大な売れ残り製品が発生して廃棄されるなどの弊害が出ています。消費者側でも、シーズン毎の「使い捨て」のような消費傾向が見られます。SDGsにもあるように、もう一度「つくる責任、使う責任」を再認識して、製品を「大切に使う」ことを考えましょう。我が国日本は「もったいない」の伝統がある国です。それを思い出すことが、省資源と環境負荷低減につながってゆきます。

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