号外:カーボンゼロの最終兵器、日本先行の宇宙太陽光発電

建物や敷地に太陽光パネルを並べた太陽光発電は、このところ各地で目にするようになりました。有力な再生可能エネルギーの1つですが、日本では設置できる場所に限りがあり、また天候に左右されて発電量が安定しないという課題もあります。その太陽光パネルを宇宙に持っていけば、常時発電することが可能になります。どのようにして電気を地上に送るのかを含めた研究開発が実施されています。この技術では、日本が先行しているという、期待が持てる話題です。

2021年2月4日付け日本経済新聞電子版に掲載された記事より、

宇宙太陽光発電のイメージ

“宇宙空間に広がった太陽光パネルで発電、電子レンジに使われるマイクロ波で地上に電気を送る「宇宙太陽光発電(SPS)」。1980年代に日本の京都大学で研究が開始され、2050年の実用化を目指し国も動き始めた。”

“電子レンジでテレビを動かす。電波が漏れないようにトゲトゲの遮蔽構造に覆われた実験室。部屋の中央に置いたコンセントを差していないテレビに電子レンジを改良した設備からマイクロ波を飛ばすと、映像が映し出された。電波は通常、波に情報を乗せて飛ばすが、出力を上げることで電気そのものを送ることが可能だ。

ワイヤレス送電は米テスラが社名の由来にしたとされる米物理学者二コラ・テスラが19世紀末に送電実験をしたり、旧日本軍がマグネトロンの軍事転用を実験したり、オランダのフィリップスが携帯電話を電子レンジで急速充電する特許を出願したりと100年以上にわたり有象無象の研究が続いてきた。

宇宙太陽光発電の仕組み

“実用化は難しいとされ、基礎研究にとどまっていた電波で電気を送る技術だが、ついに実用化フェーズに入ってきた。総務省はワイヤレス給電と呼ばれ、コンセントがなくても電気を飛ばして機器を充電できる技術を企業などが事業に利用できるように電波を割り当てる。パナソニックやオムロンなどの企業が電池レスIoT端末を開発して商用化をにらんでいる。米ではスタートアップが先行。その一つオアシスはビームを反射させて障害物をよける独自の「COTA」技術を開発し、スマートフォンに取り付けたケースでiPhoneを充電できる技術を披露した。パワーキャストは「ワイヤレス・チャージング・グリップ」の名称で、任天堂のゲーム機「スイッチ」のコントローラーを無線で充電できる製品をアマゾンで約150ドルで販売した。”

“電波による送電の可能性はデジタル機器にとどまらない。マイクロ波の出力を上げ、ビームとして照射し、送電線のように使う究極のクリーンエネルギープロジェクトが進む。宇宙空間の人工衛星からビームを飛ばして3万6千キロメートル先の地球のアンテナで受ける宇宙太陽光発電だ。構想は優れているが実用時期が見通せない夢のエネルギーとみられてきたが、近年ではカーボンゼロの流れを受けて、国が策定する宇宙基本計画に新たに宇宙太陽光発電の検討が記載されるなど再び実用化に向けた前進の兆しを見せている。”

地球上で太陽光発電をした場合、夜間や曇りの場合には発電できないため、平均で太陽光パネルの稼働率は15%とも言われる。夜のない宇宙空間では24時間発電できる。送電線の代わりにビームで送れば地球でエネルギーを受けたり、月面の裏側や他の星に電気を送ったりといったことも理論上可能になる。”

“宇宙太陽光発電は文字通り夢のプロジェクトだ。日本では京都大学の松本紘氏(現・理化学研究所理事長)先鞭をつけ、ロケットを使って宇宙空間でマイクロ波を送電するMINIXと呼ぶ実験に1983年に世界で初めて成功した。宇宙で電気を送ることは人類がいずれ地球外に生活圏を広げる際にも不可欠な技術だ。1990年当時京都大学4年生だった篠原真毅氏は、2010年に教授となり松本氏の後継者として夢の技術の開発を引き継いだ。宇宙太陽光発電は経済産業省、宇宙航空研究開発機構(JAXA)を中心に、宇宙システム開発利用推進機構や民間企業では三菱電機、三菱重工業、IHIなどが設備などを提供して実験プロジェクトを推進してきた。実用化のめどは、現在では2050年ごろと言われている。

“ネックとなるのがコストだ。事業化できる電力単価を考えると、100万キロワットの発電容量が必要になるが、太陽光パネルの大きさは長さが2キロメートルほどになると試算されている。衛星の重量は1万トン以上と、一般的な宇宙ステーションの100倍だ。衛星はロケットで静止軌道まで運ぶ必要があるが、これだけ巨大な設備になると複数回送って組み立てる必要がある。100万キロワット級の建設にかかる総コストは1兆円超との見積もりもある。しかし今後はロケットの打ち上げ費用が下がり、2050年のカーボンゼロの目標を実現するためにも、開発のスピードは進むだろうと予測されている。また、安全面での懸念もある。強力なマイクロ波は地上のアンテナで受信する必要があるが、設備の周辺は人から離す必要もあり、海上に設置する案などが検討されている。

宇宙太陽光発電と原子力発電

“遅々として進まなかった開発だが、カーボンゼロと原子力発電の停止というジレンマの中で、宇宙太陽光発電は急速に世界で注目を集めている。宇宙開発を加速する中国では、国を挙げて一気に人工衛星による実験フェーズにもっていくという計画がでているという。巨額の研究開発費で下支えする米中、さらに民間のマネーも入り宇宙開発が進む中、日本が先行してきた夢の技術の実現には、更なる資金調達の仕組みや開発スピードの加速が必要になる。

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