アパレル、仕入最大4割削減

昨年来のコロナ禍の影響もあり、アパレル各社が従来のビジネスモデルの見直しを進めています。大量仕入れ→安値販売による収益悪化という悪循環から脱出しなければなりません。よりサステイナブルなファッション産業として再生することを期待しています。

2021年2月10日付け日本経済新聞電子版に掲載された記事より、

業績悪化に苦しむアパレル各社が、大量仕入れと安値販売という従来の商習慣の見直しを急いでいる。アパレル大手のTSIホールディングス(HD)は今春夏商品で仕入を前年比2割減らすほか、定価販売の割合を8割に引き上げる。カジュアル衣料のライトオンは仕入を最大4割減らす。過剰在庫の発生を抑え、確実に売れる商品を定価で販売して収益を改善させる狙いだ。

“TSIHDは2021年春夏商品の仕入れを、ブランドによって異なるが平均で前年比の85%以下に抑える。その上でセールを縮小し、衣料品に占める定価販売の割合を現在の6割から2024年をめどに8割に順次引き上げてゆく。ゴルフウェア「パーリーゲイツ」の2020年秋冬の店頭セールを廃止し、今春以降、さらにセール中止の対象を広げる。同時に、店舗と比べ在庫を余分に持たずに済むD2C(ダイレクト・ツー・コンシューマー)ブランドを現在の1つから3つ程度に増やす。D2Cブランドは最低限の在庫を持ち、SNS(交流サイト)などで顧客の反応をみて追加生産し無駄が少ない。従来は流行しそうな製品について見込みの販売計画を策定し大量生産していた。”

“ライトオンはスウェットやパーカーなど年間を通じて販売できるカットソーとニットの割合を高めており、2021年8月期は3年前と比べ5ポイント高め全体の35%に引き上げる。季節ごとのセールで安売りする必要がないためだ。2021年春夏商品の仕入れも前年比6~7割に減らす。”

アパレル商習慣の悪循環

“三陽商会は2021年春夏商品で仕入と品目数をそれぞれ2019年比で6割程度に削減する。40代女性向けブランド「エス エッセンシャルズ」では人気の高いワンピースなどに注力し、コートの生産をやめる。売れ筋を中心に仕入、定価販売の割合を2020年2月期の45%から2022年2月期に55%にする。”

“デジタルを活用し、売れ残りを防ぐ取り組みも始まった。ビームスとクロスプラスは試作品の作成に3Dソフトウェアを使い始めた。試作期間を従来の3分の1以下に短縮できる。短期間で試作できるため、販売状況や流行を商戦期ギリギリまで見極めて商品や仕入数を決められる。”

店舗主体のアパレル苦戦

シーズンごとに大量の商品を投入し、売れ残りはセールで処分するというアパレルの商習慣は限界を迎えている。1980年代までは成功していたが、景気悪化で消費者はセールに集中し収益性が悪化。ファッション関連の消費が縮み、ファーストリテイリングやワークマンなど安価だが品質も高い企業の台頭もあり環境は厳しい。各社は仕入の削減と定価販売の増加などで収益性の改善を目指す。三陽商会は2021年2月期に85億円の連結営業赤字の見通しを、2022年2月期には最大13億円の黒字に転換する計画だ。”

“リスクもある。商品数も絞りセールも減らせば、品数が豊富でセールも頻繁に開催するZOZOや楽天などのネット通販に顧客が流れる恐れがある。コロナ禍のもとでネット通販の存在感は高まり、ZOZOの2021年3月期の連結純利益は前期比52%増の285億円と、過去最高益を見込んでいた従来予想からさらに9億円上方修正した。”

従来の、セールに依存した大量生産体制を見直すことは必要でしょう。しかし仕入を抑制しさえすれば、定価販売が増えて収益の改善につながるというわけではありません。やはりアパレル各社の「何をどの程度つくるのか=販売するのか」という戦略が重要です。アパレルですから「確実に売れる商品」の見極めは至難の業です。リスクを回避するだけでは、市場に「似たような商品が似たような価格帯」で溢れかえることになりかねません。アパレル各社は、市場における自社のオリジナリティを訴求できるコレクションで勝負して欲しいと思います。コロナ禍による店舗の営業自粛や外出を控える傾向から、ネット通販が好調なのは事実でしょう。しかしネット通販各社が独自にアパレルを企画・生産・販売しているわけではありません。アパレル各社にとって、ネット通販は販路の一つです。アパレル各社のマーケティング戦略によって、自社サイト(D2C)の運営や、ネット通販企業との付き合い方を考えてゆく必要もありそうです。

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