号外:急浮上するCCUS(CO2回収・利用・貯留)-①

カーボンニュートラルを達成するためには、もちろんCO2の排出量を大幅に削減しなければなりません。しかし、どうしても排出されるCO2については、森林や海などの自然に吸収可能な範囲であれば、大気中のCO2のバランスをとることが考えられます。しかし、そのレベルまでCO2の排出を削減することは容易ではありません。このため、自然が吸収できる以上に排出されるCO2については、CO2を回収し、利用したり貯留したりすることでカーボンニュートラルを実現するための技術開発が進んでいます。

2021年5月21日付け日経ビジネス電子版に掲載された記事より、

“4月、米国主催の気候変動サミットで、日本は、石油危機以降「乾いた雑巾を絞る」と例えられた省エネのノウハウ、液化天然ガス(LNG)輸入大国であることから発達した水素関連、それに並ぶ第3の技術としてCCSを位置付けた。「CCS」とは発電や化石燃料の生産などで生じる排出ガスからCO2を分離・回収し、地中深くに貯留する技術を指す。回収したCO2を産業に利用する「CCU」と合わせて、「CCUS(CO2回収・利用・貯留、Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage)」と総称される。”

“2020年10月、日本は2050年までに日本の温暖化ガス排出量を実質ゼロにするカーボンニュートラル(炭素中立)を達成すると宣言した。12月にはその工程表として発表した「グリーン成長戦略」の中で、CCUSを炭素中立のいわば最後のとりでと位置付けた。”

CCUSの全体像

“自動車などのモビリティーでは、ガソリンから電気へと燃料の「電化」が加速し、発電部門でも太陽光や風力などの再生可能エネルギーへの転換が徐々に進んでいる。それでも化石燃料の使用を「ゼロ」にすることは難しい。鉄鋼やセメントの製造など、化学反応の過程でどうしてもCO2が大量発生してしまう分野もある。さらに、脱炭素につながるエネルギー媒体として注目される水素やアンモニアも当面、大部分は化石燃料を改質してつくるのが実情で、その際に多くのCO2が発生する。実質ゼロを実現するには、森林吸収でも賄いきれないCO2を回収し、大気に放出しないようにする技術が不可欠なのだ。

“温暖化ガス排出削減の国際的枠組みである「パリ協定」では、今世紀末までの地球の平均気温の上昇幅を、産業革命前と比べて摂氏2度未満に抑える目標を掲げる。国際エネルギー機関(IEA)は、「2℃目標」実現のために2070年に世界全体で炭素中立にする上で、今後求められる追加的なCO2削減量のうち、2070年時点で2割をCCUSが担うと予測している。

“日本では実現していないが、実は世界では既に30ヶ所近くの商用規模のCCS施設が稼働しており、世界で年間4000万トンのCO2を回収している。これは日本の年間排出量の30分の1程度に当たり、建設中や開発段階のものを含めると65ヶ所に上る。”

世界で稼働している商用規模のCCS施設

三菱重工業では、世界のCO2回収量は、2050年までに現在の100~300倍に拡大すると見通している。同社は1990年に関西電力と共同でCO2回収の研究に着手し、排ガスのCO2回収設備で世界最大手だ。政府は、世界の分離回収設備の市場規模が2030年に年間6兆円に達すると試算する。2050年には同10兆円で、その3割を日本企業が獲得すると想定している。”

米テキサス州ペトラノヴァ社のCCS施設

米テキサス州、ここに三菱重工業が手掛けた年間160万tの回収能力を持つ世界最大規模のプラントがある。JX石油開発が50%出資するペトラノヴァ社が2016年に運転を開始した。近隣の石炭火力発電所の排ガスを、「吸収塔」と呼ぶ煙突状の設備に送り込む。塔の中で、CO2と結びつく性質を持つ「アミン」という吸収液を雨のように降らせ、排ガス中のCO2を9割以上吸収する。吸収液を蒸気で加熱すると今度はCO2を放出する。こうして回収した純度99.9%のCO2を圧縮して、老朽化した油田に送り込む。

“実はCO2の分離・回収は2000年以前から実用化されていた。油田やガス田で、化石燃料の生産などで生じるCO2を回収し、油井から地中に圧入することで石油の出を良くする石油増進回収(EOR)という手法だ。採掘効率が上がることで、CO2の分離・回収コストを賄いやすくなる。ただし、原油自体の価格が下がると、作業効率アップによる費用面のメリットが薄れてコスト回収が難しくなる。実はペトラノヴァのプラントも稼働を停止している。三菱重工業によると、アミンを使った「化学吸収法」で1tのCO2を回収するのにかかる費用は5000~6000円程度。この回収コストをどこまで下げられるかで普及の成否が決まる。脱炭素に向けて石油の消費が先細ることを考えると、EORに頼るのも難しくなる。”

コスト低減に向け新方式の開発も進む。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のプロジェクトで、川崎重工業が関西電力の舞鶴発電所で2022年度半ばに試運転を予定しているのが「個体吸収法」だ。微細な穴が開いた直径2mmのセラミックの粒の表面をアミンでコーティングし、吸収液の代わりに使う。1t当たりの回収コストを2000円台に下げられる可能性がある。他にも、特殊な膜を用いてCO2を分離する方法など、様々な手法が研究されており、国は2050年までに同1000円を目標に据える。三菱重工業も設備や運用を効率化したり、劣化しにくく、少ない熱でCO2を放出する吸収液を用いたりすることにより、コスト低減を目指している。”

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