ファッション産業のGX(グリーントランスフォーメーション)

ファッション産業が環境負荷の高い産業だと言われていることは、このHPでも取り上げてきました。ファッション産業は、サステイナブルな産業として継続されなければなりません。世界では、変革のための動きが始まっています。日本のファッション産業も、この動きに乗り遅れることがないように、しっかりしたビジョンを持って行動して欲しいと願っています。

2021年8月3日付け日本経済新聞電子版に掲載された記事より、

”温暖化ガスの排出が多いとされるファッション業界が、グリーントランスフォーメーション(GX = 緑転)を急いでいる。環境負荷の低い商品を好む「緑の消費者」が欧米を中心に増えているからだ。環境に配慮した新素材の活用が始まり、単なるリサイクルではなくデザイン性も備えた「アップサイクル」も広がっている。”

ステラ・マッカートニーのコレクション

”ファッション業界のGXは2019年8月、仏南西部ビアリッツで開かれた主要7ヶ国首脳会議(G7サミット)が起点となった。グッチなどを手掛ける仏高級品大手のケリングの主導で、2050年までのカーボンゼロを掲げる「ファッション協定」を提案し約150ブランドが賛同・署名した。

”G7サミットに先立つ2019年4月、マクロン仏大統領はケリングのフランソワアンリ・ピノー最高経営責任者(CEO)と向き合っていた。スイスの環境コンサルティング会社クアンティスが2018年に「ファッション業界は世界で排出される温暖化ガスの8%を占める」という衝撃的な調査結果を公表。服飾企業などが連携して対応するよう求めたのだ。その答えとなるファッション協定は気候変動、生物多様性、海洋保護の3つを柱に実践目標を掲げた。具体的には2025年までに、原材料の25%を持続可能な素材にする。また、再生可能エネルギーへの転換を2025年までに50%、2030年までに100%に設定。2050年までに「温暖化ガス排出量ゼロを目指す」とした。”

”高級ブランドではケリングを筆頭に、バーバリーやシャネル、フェラガモなどが名を連ねた。スポーツではナイキやアディダス、カジュアルではギャップやインディテックス(ザラ)なども参加。発表から1年後の2020年10月には、加盟企業が14ヶ国60社、ブランド数は200以上に膨らんだ。一方で、最大手の仏LVMHモエヘネシー・ルイヴィトンは協定への参加を見送った。2012年から「環境に対するLVMHのイニシアティブ(通称LIFE)」を導入し、CO2排出量や廃棄物削減などに取り組んでいるとして、独自路線を歩む。”

”流通業では欧州最大の百貨店グループである仏ギャラリー・ラファイエットが2018年から、サステイナビリティ(持続可能性)を掲げた大規模キャンペーン「ゴー・フォー・グッド(GO FOR GOOD)」を始めた。エコロジストとして知られるファッションデザイナー、ステラ・マッカートニー氏を「親善大使」に迎え、環境に配慮した商品やブランドを数多く紹介してきた。”

”環境対策が進む欧州では「緑の消費者」が急増している。ギャラリー・ラファイエットの担当者は「高級ブランドの場合、環境配慮と商品の魅力を両立できるかが重要だ」と指摘する。キャンペーンの親善大使にマッカートニー氏を招いたのも、同氏のブランド「ステラ・マッカートニー」がこの分野で成功を収めているからだ。マッカートニー氏は「ファッション業界でサステイナビリティを実現するには、デザイナーとして誰もが欲しいと感じ、捨てたくないものをデザインすること」と話す。長持ちするものこそ、人々を自然と大量消費から遠ざけ、地球環境に優しいものになるという考えだ。これがブランドの訴求力となっている。”

”環境意識の高まりに1980年代リバイバルが重なって、高級ブランドをリサイクルする動きも出てきた。1891年創業の仏高級紳士靴ブランド、J・M・ウェストンは2020年1月から「ウェストン・ヴィンテージ」を開始した。“

ウェストン・ヴィンテージ

“同社はもともと古くなった靴をアトリエで修理をするシステムがある。それを活用して、自社ブランドの古い靴を買い取り、修理をして、ほぼ新品によみがえらせ再販売する。4月、伊勢丹新宿店(東京・新宿)に期間限定でポップアップショップを出したため、日本でも取り組みが知られるようになった。期間限定店とネット販売で商品を扱い、ブランドがある限りプロジェクトは続く予定だ。もっとも、ウェストンの靴は愛好家が大事に履くため、予想よりもヴィンテージシューズの回収が難航しているという。

”日本ではバーキンやケリーといった高級カバンで有名なエルメスは、2010年から「プティ・アッシュ」というプロジェクトを始めた。製品の製作過程でどうしても残ってしまう端材を使って、服飾雑貨やジュエリー、革製品などを作り出す。フランスやベルギー、オランダなど様々な国のアーティストを招き、端材を使ったとは思えないような高品質の商品を幅広く生み出しているのがポイントだ。日本人アーティストでは、植松琢磨氏とコラボして生まれたハリネズミのオブジェがある。ただのリサイクルやリメークではなく、デザインという新しい価値を備えた「アップサイクル」の典型と言えるだろう。

植松琢磨氏のハリネズミのオブジェ

高級ブランドはもともと長く使われることが価値の一つだった。そこにサステイナビリティやアップサイクルという考え方が新風を吹き込んでいる。ファッション業界ならではのカーボンゼロが世界で芽吹きつつある。

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