号外:再生可能エネルギーを「最優先に最大限導入」、原発は?

日本は昨年、2050年での「温暖化ガス排出の実質ゼロ」を表明し、今年4月には、2030年度に排出量を2013年度比46%減らす目標を公表しました。そしてその実現に向けて、10月22日には新たな「エネルギー基本計画」を閣議決定されました。しかしその中身には具体性を欠く部分もあり、本当に実現できるのかという懸念があります。温暖化対策は地球規模の課題であり、日本も先進国として相応の貢献をすることが求められます。特に国内原発の問題については、議論を先送りするのではなく、ただちに明確な方針を定める必要があります。その方針によって、原発以外の電源をどのように確保していくのかを検討しなければなりません。

2021年10月23日付け日本経済新聞電子に掲載された記事より、

“政府は10月22日、新たな「エネルギー基本計画」を閣議決定した。再生可能エネルギーを「最優先に最大限導入する」方針を掲げた。岸田文雄首相が選ばれた自民党総裁選では原子力政策の見直し議論も出たが、前政権が7月にまとめた計画案をほぼ踏襲した。脱炭素化を進めるためにも、中長期に原発をどう活用していくかの議論が必要になる。計画は2030年度の電源に占める再生可能エネルギーの比率を2019年度実績の18%から36~38%にまで引き上げる。原発は6%から20~22%にするが、これまでの計画の2030年度の目標を据え置いた。”

“政府は10月22日、2030年度に温暖化ガスの排出量を2013年度比46%減らす目標を国連気候変動枠組み条約の事務局に提出した。新たな計画では2030年度の電源に占める石炭火力の割合を19%と見込む。石炭への依存度は先進7か国(G7)の中でも高く、批判が出かねない状況だ。とはいえ、9月の自民党総裁選では、候補者の河野太郎氏が原子力政策の要である核燃料リサイクル政策についてコストや実現性の観点から見直しを提起したり、高市早苗氏が原発の建て替えの必要性を訴えたりした。岸田氏は総裁選で基本計画は原案から見直さない意向を示していた。”

新エネルギー計画と温暖化対策の概要

脱炭素社会をどう目指すかの観点からも原発は重要な論点の一つとなっている。岸田政権の発足後は、自民党の甘利明幹事長が小型炉を活用した形での原発の建て替えを提起しているが、新計画には明確な記述はない。そもそも原子力政策では、東京電力福島第1原発の廃炉をどう着実に進めるかや、実行段階へと進まない核燃料サイクル、放射性廃棄物の最終処分地など、政府が議論を避けてきた課題は多い。原発を使う、使わないにかかわらず廃棄物の処分など解決しなければならない問題もある。”

今回の計画では、2030年度の原発比率を達成するには、電力会社が原子力規制委員会に稼働を申請した全27基の稼働が前提となる。東京電力福島第1原発事故もあり、稼働するのは10基にとどまり、ハードルは高い。エネルギー政策の羅針盤が今回の計画のままでは、電力の安定供給と脱炭素を両立できるかは見通せない。原発をつかう場合も安全対策などの費用はかかるが、使わずに再生可能エネルギーを想定以上に増やす際にも送電網の増強費用や蓄電池の導入コストなどがかかる。現実を見据えた議論が求められる。”

各国の太陽光発電コスト

エネルギー基本計画で定めた2030年度の電源構成を実現できるかも課題だ。従来の計画で2030年度に22~24%とした再生可能エネルギー比率を大幅に引き上げた(36~38%)ためで、14~16%を見込む太陽光発電の大規模化などがカギを握る。日本では太陽光パネルの置き場所が限られることなどから当初、再生可能エネルギーの比率は30%前後と見込まれていた。2030年度の削減目標の実現のため上積みしたが具体的な計画は乏しい。コストも課題だ。国際再生可能エネルギー機関(IRENA)によると、日本の太陽光の発電コストは1キロワット時13.5円(1ドル=114円換算)。5円の中国や6.5円の米国の2倍超で、7.3円のフランスや7.6円のドイツより8割高い。企業や家庭に導入の利点が見えにくい。

平地が少ない日本は太陽光発電の整備費が割高だ。改正地球温暖化対策法の促進区域では、地元との調整を経て発電所を設置しやすくなる。こうした仕組みなどで効率を高める必要がある。CO2の排出量が多い石炭火力は2030年度に19%を見込むが、国際的な風当たりは強い。原発や再生可能エネルギーの発電が不足すれば火力に頼らざるを得ない。脱炭素化を実現できないリスクが高まる。

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