号外:「2030年までに森林破壊をなくす」COP26の共同声明
世界の森林が危機に晒されていることは、ブラジルのアマゾンやインドネシアなどからのニュースで伝えられています。森林は大気からCO2を吸収して酸素を放出します。それだけではなく、森林を含む生態系は大量の炭素を保持しています。世界の森林を保護すること、森林面積を増加させることは大変重要なことですが、現実には森林破壊や森林火災が続いています。今回のCOP26での共同声明は、この状況から脱する契機になるのでしょうか。
2021年11月8日付けNational Geographic電子版に掲載された記事より、
”英国のグラスゴーで開かれているCOP26(第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議)で、2030年までに森林破壊をなくすとする共同声明が発表された。しかし具体的な行動が伴わなければ、森林破壊が続き、加速するするおそれもある。”
”米国の非営利研究団体「世界資源研究所」によると、熱帯での森林喪失によるCO2排出量は、国別の排出量ランキングに当てはめると中国、米国に次ぐ3位に相当するという。同時に世界の森林は、1年間で世界の排出量のおよそ20%にあたる約76億トンの炭素を大気から吸収している。国際研究プログラム「グローバル・カーボン・プロジェクト」が11月4日に発表したデータによると、世界における2021年の化石燃料由来のCO2排出量は前年に比べて4.9%増加するという。これは、2020年に新型コロナウイルス感染症の流行の影響で5.4%減った分を打ち消すほどの増え方だ。実際、今年の石炭と天然ガスの使用量は、パンデミック前のレベルを超えると予想されている。”
”今回の森林に関するグラスゴー宣言を歓迎する声があがっている。「熱帯雨林への取り組みなくして、排出量ゼロは実現できません」と、英バンガー大学で自然保護を研究するジュリア・ジョーンズ氏は話す。ジョーンズ氏によると、特に重要なのは、今回の宣言が「リアルマネー」に裏打ちされていることだ。宣言には世界森林金融協定(Global Forest Finance Pledge)が含まれている。これは「森林と持続可能な土地利用の可能性を引き出すことに役立てるため」に、11の国と欧州連合(EU)が120億ドルの資金を提供すると言うものだ。また米国のバイデン大統領は、これから2030年までに90億ドルを追加拠出することを議会に働きかけたいと述べた。また、「先住民や地域コミュニティによる森林保有権を拡大し、森林や自然の保護における彼らの役割に対する認知度や対価をあげる」ことを目的として、民間部門から72億ドル、14の政府機関や個人から17億ドルが拠出される予定になっている。”
”とはいえ、これまでの流れを考えれば、この新たな宣言も懐疑的に見ざるを得ない。2014年の「森林に関するニューヨーク宣言」でも、2030年までに森林破壊ゼロ、その中間目標として2020年までに50%削減という数値が設定された。だが、2019年の調査によると、宣言後の森林消失率はそれ以前よりも41%上昇しており、毎年英国の面積に相当するほどの森林が失われているという。署名国はニューヨーク宣言に比べて増えた。ニューヨーク宣言には40ヶ国が参加していたものの、世界の森林保有面積の上位2か国にあたるロシアとブラジルは含まれていなかった。今回のグラスゴー宣言には、この両国に加え、世界5番目の森林面積を持つ中国も参加している。現時点で宣言に署名したのは合計133ヶ国で、地球上の森林の90%がカバーされることになる。”
”ただし、署名を額面通り受け取るべきでないかもしれない。たとえばブラジルでは、2019年にボルソナル大統領が就任してから、森林破壊率が過去12年間で最大となった。今年7月には、学会や環境活動家たちが、同氏の政権が続けばアマゾンの熱帯雨林が崩壊するとの警告を発するに至った。世界有数の森林国であるインドネシアも、誓約を反故にするような発言をしている。同国のバカール環境林業大臣は、11月3日に、「インドネシアに2030年までに森林破壊ゼロを強いるのは、明らかに適切ではなく、不公平です。炭素排出や森林破壊という名目で開発を止めるべきではありません」と述べている。”
“こういった状況から浮き彫りになるのは、宣言自体の曖昧さだ。環境保護団体「グリーンピースUSA」は、「インドネシアの声明は、グラスゴー宣言が口先ばかりで具体性に欠けることを示している」と指摘している。「署名した国々の間には、共通認識や見解の一致はありません。目標をどう実現するかという枠組みがないのです。実情が考慮されていません。インドネシアやブラジルなどの国は、協定に反して森林破壊を助長するような政策をととっていますが、このような国にとってこの宣言はどんな意味を持つのでしょうか?」”
“世界のパーム油の85%から90%はインドネシアとマレーシアで生産されている。インドネシアでは、2018年よりプランテーションの新規許可が停止されていたが、今年9月にその制度が失効している。この地域の熱帯雨林にとって最大の脅威となっているのが、パーム油プランテーションだ。”
“森林破壊を減らしたりなくしたりするのは、決して不可能なことではない。10年ごとに見れば、世界の森林破壊率は1980年代をピークとして減少を続けている。また、温帯林の森林被覆率はこの30年間で増加を続けている。コスタリカは、森林を保護する農家に報酬を支払っている。ブラジルでは、「グリーンピース・ブラジル」やブラジル連邦検察庁からの圧力により、2009年から2014年のアマゾンの森林破壊率は最低となった。しかし、ボルソナロ政権の政策により、再び増加に転じた。”
“前出のジョーンズ氏は、「森林は、2つの理由で重要です」と述べる。一つは、森林が伐採されると、そこに蓄えられていた炭素が放出されること。もう一つは、木々が毎年大気から炭素を吸収し、人間による排出のいくらかを相殺してくれることだ。ジョーンズ氏によると、世界の森林全体として見れば、放出される炭素よりも、吸収される炭素の方が多い。しかし、ブラジルのアマゾンや一部のユネスコ世界遺産の森など、吸収量よりも放出量の方が多い森林もあるという。特に危険なのは、炭素を多く含む泥炭地にある森林だ。そこには、木々が吸収するよりも多くの炭素が含まれている可能性がある。グラスゴーの会議で、アフリカのコンゴ盆地にある世界で2番目に大きな熱帯雨林が特に注目を集めているのはそのためでもある。政府や個人が拠出する15億ドルは、この地域に向けられている。最近の研究によれば、コンゴ盆地の森林の4%を占める泥炭地には、残りの96%を合わせたものと同じくらいの炭素が含まれているという。ジョーンズ氏は「地球規模で考えれば、コンゴ盆地の泥炭林を維持する必要があるのは間違いありません。森は、人間にとって欠かせないものを提供しているのです」と述べている。”