号外:IPCC報告書、気温2度上昇で水不足30億人も

2020年2月28日付け日本経済新聞電子版に掲載された記事より、

国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は2月28日、気候変動による影響や対応策を分析した報告書を公表した。産業革命前に比べて気温が2度上昇すれば今世紀末までに干ばつなどで慢性的な水不足に陥る人口が8億~30億人に至ると予測した。食料生産や健康、生物種への悪影響は気温上昇が進むほど大きくなると警鐘を鳴らしている。”

現在、世界の人口は約78億人いる。化石燃料に依存し排出量の多いシナリオに相当する4度の温暖化では、水不足は最大約40億人と見込む。温暖化によりアンデス山脈の雪解け水を利用する南米の都市や農村などでは生活への影響が強まる。報告書では現状で33億~36億人が気候変動に対応できず、水害などの悪影響を受けやすい状況にあると盛り込んだ。”

IPCCの作業部会

”IPCCの作業部会は3つあり、それぞれ5~6年ごとに報告書を公表する。人的被害の影響や対応策に関する報告書は今回が第6次となり、これまでより表現を強めて「人為的な気候変動が自然や人々に広く悪影響と損失・損害を与えている」と断言した。21世紀に入り、新興国や途上国の経済成長に伴い温暖化ガスの排出は急増している。IPCCは2021年8月の報告書で20年以内に気温上昇は1.5度に達するとの予測も示した。今回も「近い将来に達する」と指摘し、複数のシナリオで分析した。”

気温上昇に伴って海面が上昇し、沿岸の海抜が低い地域では今世紀半ばに10億人以上が洪水などのリスクに直面するとも予測。都市や工場などは海沿いに集中するため、気温が2~3度上昇するシナリオでは、今世紀末までに洪水で約1500兆円の資産に影響が生じる可能性がある。温暖化の被害は海面上昇や農業、難民の増加など多くの分野で既に顕在化する。水害により移住を余儀なくされた住民は2020年でも約2800万人に上った。西太平洋では8つの島が既に水没したとの報告もある。”

”現状のペースで気温上昇が続いた場合、2060年に水害にさらされる恐れのある住民の数は中国2.4億人、インド2.1億人とも予測される。台風の大型化や海面上昇に備えた防潮堤の建設やハザードマップの作製も意味をなさなくなる。海面の高さが世界平均で2020年の位置から15センチ上がると100年に1回レベルの洪水リスクにさらされる人口が20%増える。75センチ上昇で2倍、1.4メートルで3倍になる。

IPCCが評価した気候変動の悪影響

”IPCCの報告書は「気候変動は最も脆弱な人々に影響を与える」とし、途上国の貧困層の生活が脅かされるとの見方を示した。農産物に高温障害などが発生し、海が暖まって漁業に影響している。食料生産の効率が落ちることで飢餓に苦しむ人口はアフリカ、南アジア、中米を中心に2050年に800万~8000万人になると見積もる。熱波の被害も深刻だ。気温が2.7度上昇する場合、世界の65%の都市で、「暑さ指数」が40度以上という深刻な猛暑日が年1回以上発生するという。医学誌ランセットによれば、2000年から2018年にかけて65歳以上の人が暑さの影響で死亡する確率は55%高まった。こうした傾向がさらに強まることになる。”

「暑さ指数(WBGT)」:Wet Bulb Globe Temperature(湿球黒球温度)は、熱中症を予防することを目的として1954年にアメリカで提案された指標。単位は気温と同じ摂氏度(℃)で示されるが、その値は気温とは異なる。暑さ指数(WBGT)は人体と外気との熱のやりとり(熱収支)に着目した指標で、人体の熱収支に与える影響の大きい①湿度、②日射・輻射など周辺の熱環境、③気温の3つを取り入れた指標。暑さ指数(WBGT)が28(厳重警戒)を超えると熱中症患者が著しく増加する。暑さ指数(WBGT)30以上は「危険」レベルと評価される。

5つの温暖化シナリオ

ロシアのウクライナ侵攻により西欧諸国を中心とした脱炭素戦略は見直しを迫られている。ロシアから4割程度を輸入する天然ガスを石炭からの移行的な熱源として当て込んでいるからだ。仮に単純に石炭を代替として使用し続ければ将来の気候変動に重大な影響を与える。IPCCは「2050年ごろにCO2と他の温暖化ガス排出量を大幅に削減して実質ゼロにしない限り、21世紀中に1.5度と2度の両方を超える」と訴えている。前段階として2030年時点で2010年比45%の削減も必要と指摘している。今の対策を緩めれば1.5度目標の達成はそれだけ遠のく。”

”2021年11月に英国で開かれた第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)では、各国は世界の気温上昇を1.5度以内に抑える努力を追求すると確認した。現状の各国の温暖化ガス排出削減目標を積み上げても今世紀末までに2度近くなるとの試算もある。エジプトで今年11月に開かれるCOP27では今回の報告書を基に気候変動の被害が深刻な途上国への支援にどう取り組むかが、主要な議題になる。各国や大企業の対応が問われている。”

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