「エシカル調達」ゆがむ需給

最近は「エシカル調達」という言葉をよく耳にするようになりました。倫理的な調達ということで、環境や人権に配慮したビジネスが広がっていくというイメージがありますが、どうも現実はそれほど単純なことではないようです。有意義な活動が社会に定着し、期待される効果を発揮するためには、試行錯誤を含めて関係者の継続的な努力が必要です。フェアトレード認証を取得しても、「生産者がコストをかけても大半が通常価格で買い取られている。負担した費用の回収は難しい」というのでは本末転倒です。

2022年4月27日付け日本経済新聞に掲載された記事より、

”環境や人権に配慮した「エシカル(倫理的)」な原料調達を巡り、世界各地の農産物市場で混乱が起きている。認証や生産者支援のための制度の設計が難しく、需給バランスをゆがませたり、価格の急騰を招いたりしている。産地や需要家双方が納得する仕組みを整備しなければ、持続可能な調達に支障をきたしかねない。”

生産者に配慮した公正な価格で取引される「フェアトレード」で農作物の需給にゆがみが生じている。認証を取得したコーヒー豆のうち、実際にフェアトレードコーヒーとして販売されているのは4分の1にすぎない。チョコレートの原料となるカカオ豆も3割未満にとどまる。通常品に比べ価格が高く、買い手が見つからない中で認証だけが進み、フェアトレード品が需要を大幅に上回る状態となっている。

フェアトレード認証を取得するには農薬の使用制限など生産者も一定のルールを順守する必要がある。価格転嫁が進むのはまだ一部で「生産者がコストをかけても大半が通常価格で買い取られている。負担した費用の回収は難しい」と認証団体のフェアトレード・ラベル・ジャパンの中島佳織氏は指摘する。”

カカオ豆では最大産地コートジボワールなどが2020年10月から、買い手に対し購入量1トンあたり400ドルの割増金の支払いを義務付けた。同国政府が割増金を導入した理由は農家を苦境から救うためだ。人間らしい生活を送るのに必要な稼ぎを得ているカカオ豆農家が全体の15%にすぎないという調査結果もあるほどだ。政府の意図とは裏腹に、食品会社の間では調達コストの上昇を嫌気しコートジボワールなどからの調達を避ける動きが出ている。米チョコレート製造大手は2020年秋に先物取引所で大口調達の動きを見せた。取引所からカカオ豆を調達する場合、基本的に買い手は産地や生産時期を指定できないが、割増金を負担しなくて済むという手段に目を付けたようだ。需要家から割増金を徴収することで、農家の収入を底上げする生産国のもくろみは外れつつある。

”制度の不備を立て直す動きも出ている。インドでは有機コットン(綿花)の認証プロセスにおける不正発覚をきっかけに、認証機関は証明書の偽造防止の取り組みを強化した。その結果、インド産の有機コットンの供給量が大幅に減り、独ブレーメンの取引所によると、通常のコットンの国際価格に上乗せされる価格割増率は2021年に60%と1年で20倍に高騰した。通常品の国際価格は4月14日には1ポンド1.4ドル台と、2011年6月以来の高値を付けており、足元の有機コットンの価格は2ドル半ば~3ドル台まで上昇している。”

たとえインドのようにエシカル調達の実現に向けて制度を厳格にしても、価格高騰が引き起こされるケースもある。価格がこの水準まで上昇すると、買い手が容易に見つかるかは不透明だ。もっとも最近はESG(環境・社会・企業統治)への取り組みは企業価値に影響を与えるようになった。農作物を仕入れる食品会社などはエシカル調達に真剣に向き合わなければ、機関投資家などの投資対象から外される可能性がある。生産国側、需要家側の双方にとって、バランスのとれた制度作りが急務になっている。

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