号外:世界各地を襲う熱波、ジェット気流の蛇行が一因か?

このHPでも日本近海での黒潮(海流)の蛇行が日本の気候に影響を与えていることを紹介しました。今度はジェット気流の蛇行についての話題です。このような異常な気象現象と地球温暖化の関係を科学的に解明することは簡単ではありません。しかし、何か変なことが連鎖しながら発生しているという印象はぬぐえません。

黒潮「大蛇行」が過去最長、漁業や気候への影響大きく>の項を参照

2022年7月22日付け日本経済新聞電子版(Financial Timesより転載)に掲載された記事より、

7月に入って猛烈な熱波が欧米や中国を襲い、火災を起こし物流の混乱を招いている。その熱波には共通項が1つある。「ウェーブナンバー5」と呼ばれるジェット気流(偏西風)の特殊な形状である。中緯度地域では、ジェット気流という風速の大きい気流が天候を左右している。ジェット気流の変化が熱波の頻発と(同じ場所での)停滞をもたらしているのかどうか、科学者は解明を急いでいる。”

”「ジェット気流は天候を決める主要因になっている」と言うのは、英レディング大学で大気科学を専門とするポール・ウィリアムズ教授だ。「ジェット気流はコンベヤーベルトのようなもので、次々と嵐をもたらしている」。ジェット気流が大きく蛇行してU字型の流れになれば、熱波をもたらすこともある。この現象はギリシャ文字のオメガ(ω)に似ていることから「オメガブロック」と呼ばれている。現在では世界で5つの大きなオメガブロックが生じ、世界各地で熱波が同時発生している。このいわゆるウェーブナンバー5現象は数週間続くこともあり、熱波に見舞われた地域では長期間にわたって高温が持続する。“

ウェーブナンバー5現象

”中国では9億人以上が熱波を経験し、7月に入って70を超える測候所で観測史上最高気温を更新した。米国では、テキサス州とオクラホマ州で日中の最高気温を更新し、20州以上が高温警報や高温注意報を発令している。英国も今週、史上最高の40.3度を記録した。フランスやスペインでは異常な高気温が数週間続き各地で過去最高を記録、山火事も発生している。”

”英気象庁の首席科学者ステファン・ベルチャー氏は「大気ではよくみられるのだが、すべてがつながっている。1つの地域で発生した極端な現象は、別の場所で生じた極端な現象と関連づけられる」と言う。「気象庁では、このウェーブナンバー5現象がどのくらい続くのか予報士が細心の注意を払って観測している」。ベルチャー氏は欧州に来襲している熱波の発生要因は3つあるという。ジェット気流のウェーブナンバー5現象、世界的な平均気温の上昇、そして土壌の乾燥だ。特に地中海周辺諸国では高気温が長引いたことで、土壌がカラカラに乾いている。”

”オランダ・アムステルダム自由大学の気象学者ディム・クモウ氏は、夏のジェット気流の流れにはウェーブナンバー5とウェーブナンバー7という2つの重要なパターンがあり、発生すれば1ヶ所に長期間停滞しがちだと指摘する。「そうした気流の流れが停滞し持続すれば、熱波が同時に複数個所で発生することが多い」。ジェット気流が地球温暖化によって具体的にどう変わっているのか、それは将来の気候パターンにどう影響するのかという疑問に答えを出そうとする研究が広がっている。世界の平均気温は産業革命以前に比べて、人間活動の影響ですでに約1.1度上昇している。”

ジェット気流そのものは長い間に動きを変え、夏には動きが鈍化するようだ。そのためにオメガブロック現象が発生しやすくなっている可能性がある。米ウッドウェル気候研究センターの大気科学者ジェニファー・フランシス氏は、北極圏の急激な温暖化がジェット気流の鈍化の原因ではないかと分析する。フランシス氏は「夏は全般的に風が減る」と言う。「そもそもジェット気流が発生するというのは、北に冷気があり、南に暖気があるために気温差が生じて、ジェット気流の発生条件になる」。北極圏は他の地域より格段に速く温暖化が進んでいるため、そうした気団間の温度差が今は小さくなっている。”

ジェット気流の動きにはまだ解明されていない部分もある。英国は最近、熱波に見舞われたが、それは他の欧州各国が経験したことを「ほんの少し味見したにすぎない」とオックスフォード大学の大気物理学者ティム・ウーリングス教授は言う。「本当の酷暑を経験しているのはスペインやフランスだ」。英国では7月18日から19日の2日間にわたって異常な高気温が続き、その後やや落ち着いていたが、スペインとフランスでは高温が数週間続いている。気候モデルでは、世界の平均気温が上昇するのに伴い熱波の温度は年々高くなると予測されている。しかし、地球温暖化がジェット気流の流れにどのような影響を与えているかを研究者が正確に突き止めるには何年もかかりそうだ。

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