ポリエステルを分解する触媒反応発見

ポリエステルは合成繊維の主要品種です。衣料品のリサイクルについては、先ずは回収・分別するのが大変です。さらにマテリアルリサイクルでは再生品の純度や用途(出口)の制約があり、なかなか拡大できません。ケミカルリサイクルでも回収したものの純度や添加剤等の制約があり、多様なメーカーのポリエステルを一括でリサイクル処理することが困難です。またリサイクルした再生品よりもバージン材料の方が安価であり、品質も安定しているといった課題が山積で、リサイクルがなかなか進んでいないのが実態です。

使用後衣料品の回収、リサイクルする前に

衣料品のマテリアルリサイクル:その実態と限界

衣料品のケミカルリサイクル:その可能性と制約>の項を参照

リサイクルが難しい理由をあげるだけでは意味がありません。何とか衣料品をリサイクルして循環経済に組み込み、サステイナブルな産業にしていかねばなりません。やはり合成繊維、特にポリエステルのケミカルリサイクルの推進が大きなテーマになります。この分野で期待できそうな技術が開発されたという話題です。

2022年7月20日付け繊研新聞に掲載された記事より、

”東京農工大大学院と東京都立大学院も共同研究チームは、ポリエステルを触媒反応によってモノマーに戻す技術を開発した。レアアース(希土類)の一種であるランタン系の物質が有効な触媒であると発見し、PET(ポリエチレンテレフタレート)などのポリマーで有効性を確認した。繊維を含むポリエステルのケミカルリサイクルに低コストで応用できる新技術として注目される。

”共同研究チームで開発した技術の論文が英国王立科学会「ケミカル・コミュニケーション」誌(6月27日付け電子版)に掲載された。”

”同研究では、ポリエステルのモノマー重合プロセス及び構造に注目した。ポリエステル類は、ジカルボン酸(両端にカルボン酸が結合)とジオール(グリコールとも呼ぶ、両端がアルコール)の両モノマーの反応で合成され、エステル構造を繰り返す点に着目。エステル構造をメタノールなどの低分子量のアルコールに次々置き換えられればモノマーに分解できる(トランスエステル化反応)ことが知られているが、ポリエステルを塩基や添加剤なしで効率的に分解する触媒はこれまで見つかっていなかった。

”研究グループはポリエステルの一種であるPBS(ポリブチレンサクシネート)に対してさまざまな触媒を使い、多様な条件下で検討したところレアアース元素のランタンが有機分子と結びついた錯体が触媒として有効であることを発見した。溶媒のメタノールに重量比1%のランタン錯体を含んだ濃度で、90度・4時間でPBSの原料モノマーであるスクシン酸ジメチル(コハク酸ジメチル)と1・4-ブタンジオールに分解でき、抽出分離することもできた。同様にPETでは、同じ1%濃度の触媒で150度・4時間で、原料モノマーのテレフタル酸ジメチルとエチレングリコールに分解し、市販のペットボトルで行った実験でも完全に分解できた。PBT(ポリブチレンテレフタレート)も同条件でテレフタル酸ジメチルと1・4-ブタンジオールに分解できた。”

”PETを分解する手法としてはこれまで、強アルカリの薬剤を大量に使う方法や、添加剤を大量に加えるやり方が知られていたが、これらと比べてランタン錯体を使った今回の方法は、触媒、溶剤とも安価で、実験室レベルで大きなスケールで完全分解できるため、「実用性の高い反応」という。

Follow me!