号外:脱炭素「移行期」にどのように対応していくのか?

気候変動対策として「脱炭素」が必要なことは世界の国々で共通の認識となっています。脱炭素を達成するために、再生可能エネルギーや電気自動車などの排出ゼロを目指す技術開発や設備投資に資金が誘導されています。その一方で、ロシアのウクライナ侵攻の影響もありエネルギー供給が不安定になっていますが、その理由のひとつには化石燃料の使用に関係する設備投資や設備更新への資金供給が細っていることがあります。アメリカのガソリンが高騰しているのは、原油が足りないわけではありません。原油価格が高騰しているのは事実ですが、アメリカ国内の石油精製能力が需要の回復に追い付いていないのです。投資家も企業も、将来的には漸減していかざるを得ない石油精製能力を維持・拡大するために資金投入することには及び腰です。2050年の温暖化ガス排出実質ゼロを直線的に目指すことは非常に難易度が高く、経済的な混乱を引き起こしかねません。円滑な脱炭素への移行を実現するためには、「トランジション」と呼ばれる排出量を段階的に減らしていく技術や事業も大切です。

2022年8月2日付け日本経済新聞電子版に掲載された記事より、

エネルギー価格の高騰など経済の混乱を回避しながら脱炭素社会の実現を目指す取り組みが始まった。排出量を段階的に減らす「トランジション」と呼ばれる移行期の技術や事業にマネーを誘導する。排出ゼロの「グリーン」中心だったマネーの行き先を広げる。”

トランジションを巡る世界の動き

”世界は脱炭素化を進めるうえで再生可能エネルギーや電気自動車など排出ゼロの事業で「グリーン」と呼ばれる領域を重視してきた。技術開発や設備投資を後押しする資金が集まっている。ロシアによるウクライナ侵攻で欧州などではエネルギー調達が不安定になり、状況が一変した。エネルギーの高騰は経済の混乱を招く恐れもある。排出量はゼロではないが、現在より削減できる技術や設備の導入はトランジションと呼ばれる。脱炭素への移行を円滑に進める政策も必要との認識が広がっている。

”経済産業省は金融機関や投資家向けに情報開示を強化する。鉄鋼や化学など排出量の多い8業種について、業種ごとの技術開発の展望や排出削減率を記載した工程表を拡充する。外部機関の協力を得て削減効果を示す。例えば、鉄鋼では水素などを活用し製造工程で使うコークス(石炭)の量を減らせば排出量が減る。排出量の多い業界にマネーを誘導する。

海外でも移行期の対応を重視する。英財務相は企業の情報開示に統一性を持たせる。4月に専門組織を立ち上げ、企業などによる移行計画の情報開示指針づくりを急ぐ。「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」が提案した枠組みでは、企業に開示内容を委ねていた。グリーンな分野は金融機関や投資家にとってわかりやすく投融資に踏み切りやすい。一方、移行の分野は、技術の道筋や削減効果が測れないことが障害となっていた。欧州連合(EU)はグリーン事業に電気自動車を入れ、ハイブリッド車は外すといった分類をすることで投資マネーを誘導してきた。これを移行にも広げる検討をする。”

排出量の多い製造業を抱える日本は、いち早く移行の重要性を国際的に発信してきた。20ヶ国・地域(G20)は基本原則を策定しようとしており、日本の取り組みを積極的に打ち出す。2050年に排出量の実質ゼロを達成するには総額125兆ドル(約1京6000兆円)が必要とされる。投資先はグリーンな技術や事業に偏り、債権の発行額では「移行債」は「環境債」の1%に満たない規模だ。国内でも10年で約150兆円が必要と試算され、政府は10年で20兆円規模を支援する。資金は「GX(グリーントランスフォーメーション)経済移行債(仮称)」で調達する方針だ。”

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