号外:なぜ日本酒は斜陽産業になったのか?③
2022年8月18日付け日経クロストレンドに掲載された記事より、
”級別制度に代わって用いられたのは、精米歩合とつくり方によって酒の分類をする方法だ。1989年、「清酒の製法品質表示基準」が定められ、そこで、米と米麹と水のみからつくる混ざり物のない酒を「純米酒」、醸造用アルコールを添加した場合は精米歩合が70%以下の物を「本醸造酒」と呼ぶこととされた。その他、精米歩合とつくり方に応じて、純米であれば「特別純米酒」「純米吟醸酒」「純米大吟醸酒」などとなる。以来、このような特別な表記のあるものを「特定名称酒」、それ以外を「普通酒」と呼ぶようになった。”
”級別制度が廃止されてから安売りに走ったのは普通酒である。一方の特定名称酒については、80年代に始まった端麗辛口ブーム(石本酒造の「越乃寒梅」など、新潟の端麗辛口酒が火付け役)を皮切りに、最初は本醸造が、次により米を磨いた吟醸、大吟醸のブームが生まれていく。そして、1994年には、山形県の高木酒造が米のうまみが詰まった濃厚で芳醇な「十四代」を発表し、端麗辛口一本やりだった日本酒業界に濃醇旨口という対抗馬が生まれる。これが米のうまみフォーカスした純米酒への人気に火を付け、さらに米を磨いた純米吟醸、純米大吟醸への需要をつくっていったのである。”
”純米大吟醸に特化した山口県の旭酒造の「獺祭」がブレークするのは2010年代に入ってからだが、このような動きも受けて、純米酒、純米大吟醸酒は販売量を順調に伸ばしてきた。こうして特定名称酒の中でも、アルコールを添加した酒は次第に売れなくなり、純米系のものだけが伸びる構造が生まれたのである。”
”ただし、先に取り上げた出荷数量ベースで見ると、純米・純米吟醸の成長は2017年度で止まったかのように見える。その約2年後に新型コロナウイルス禍が到来したため、市場の見極めは難しいが、端麗辛口ブームに乗って本醸造→吟醸→大吟醸、濃醇旨口ブームに乗って純米→純米吟醸→純米大吟醸と市場を広げてきた特定名称酒も、ここまでで一通り開拓され、飽和感が出てきているのかもしれない。”
”日本酒のアルコール飲料に占める出荷量のシェアはたった5%だから、やり方次第ではまだいくらでも成長できる余地はある。だが、これまでの売り方、造り方を続けているだけでは頭打ちになる可能性も否めない。輸出が順調に伸びているため、輸出に活路を見いだそうという機運も高まっているが、「国酒」(日本を代表する酒)となるためには、国内でももっと文化として定着すべきだ。”
日本酒の原料である米は、日本人にとっては主食でもあります。酒税の確保や食糧難の影響で、日本酒の歴史や伝統がないがしろにされてしまったことは残念なことです。このところの地酒ブームや特定名称酒の販売が伸びることで、日本酒の素晴らしさが見直されることに期待したいと思います。以前ドイツに住んでいたころに、日本のワインブームのニュースに触れたドイツ人が、「日本にはサケという素晴らしものがあるじゃないか」と言っていたことを思い出します。欧州の人々にとって、ワインはお酒であると同時に文化そのものです。フランスでは1935年に制定された原産地統制名称(AOC)制度で、ワインの生産方法や産地が詳細に定められています。そしてワインにまつわる伝統が、今でも脈々と受け継がれています。日本酒が、日本の伝統を伝える「国酒」として世界に認められるためには、先ず私たち日本人が日本酒を見直し、その可能性を信じることが大切だと思います。何よりも、私としては美味しい日本酒を飲む機会が増えてくれれば、これに勝る幸せはありません。