号外:「移行計画」、脱炭素と事業成長を両立

企業が実効性のある計画を示さず、脱炭素を単に宣言するだけの「勝手にネットゼロ」というのを聞かれたことがありますか?今では、そして今後ますます、投資家から資金を獲得するためには、ネットゼロに向けた定量目標やロードマップの提出を求められることになります。

2022年11月14日付け日経産業新聞電子版に掲載された記事より、

オムロンの太陽光発電

“ここ数年で、脱炭素を宣言する企業は急速に増えた。脱炭素の取り組みを金融面から後押しする動きも活発になってきた。2021年11月に、温暖化ガス排出実質ゼロをめざす金融機関の有志連合「グラスゴー金融同盟(GFANZ)」が創設された。GFANZには、世界から500超の金融機関が加盟する。加盟機関が投融資先となる企業の脱炭素をめざして、資金を振り分けている。

“こうしたなかで、脱炭素をどうやって実現するのか、実効性を厳しく問われるようになってきた。実際、主要な機関投資家が投資先企業に対して、脱炭素社会の実現に向けた道筋を示す「移行計画」の策定を求めている。英運用会社リーガル・アンド・ジェネラル・インベストメント・マネジメント(LGIM)は、その1社である。経営陣が提案した移行計画について株主に賛否を聞く「セイ・オン・クライメート」と呼ぶ仕組みも要請している。2021年には移行計画を提案したいくつかの企業に対して、「確実にネットゼロにつながるこのではない懸念がある」との理由から反対票を投じた。”

“今や「2050年にネットゼロ」といった最終目標を示すだけでは不十分だ。ESG(環境・社会・企業統治)マネーを呼び込むうえでも、実効性のある計画や脱炭素を事業成長に結び付ける戦略の重要性が増している。英ユニリーバは2021年3月、「気候移行行動計画(CTAP)」を発表し、同年5月の株主総会で提案した。その結果、LGIMを含む99%以上の株主から賛同を得たという。”

環境や社会課題の解決と事業成長の両立を目指すユニリーバは、2039年までにサプライチェーン(供給網)全体で温暖化ガス排出量をネットゼロにする野心的な目標を掲げる。「気候変動は当社のビジネスにとって最大の長期的リスク。気候変動対策なくして未来はない。企業としてアクションを取り、そのアクションについて透明性を確保する必要がある」(ユニリーバ)との考えから、CTAPを策定した。”

CTAPはユニリーバの事業戦略そのものであり、脱炭素社会を見越して製品ポートフォリオも組み替えていく。例えば、2030年までに全ての洗剤と衣料用製品で化石資源由来の原料を再生可能なものやリサイクル材に置き換える。食品では、2025~27年に温暖化ガス削減にも寄与する植物由来の代替肉・代替乳製品の年間売上高を10億ユーロ(約1400億円)にする目標を掲げている。”

ユニリーバのリサイクルした原料を使う衣料用洗剤

欧米の先進企業は、脱炭素と事業成長を両立すべく、明確な戦略を描いて実行に移している。一方で日本企業はどうか。脱炭素は掲げたものの、事業計画との整合性が取られていない企業がまだ少なくないのが実情だろう。しかしここへ来て、脱炭素を長期ビジョンや中期経営計画にしかりと組み込み、「攻め」の戦略を取る企業が登場している。”

オムロンは2022年3月、2030年までの長期ビジョンと2022~24年度の中計を公表した。山田義仁社長最高経営責任者(CEO)は「カーボンニュートラルを自社の競争力へと転換していく」と意気込みを見せた。脱炭素で成長する姿勢を明確にした長期ビジョンと中計は、オムロンにとっての移行計画に他ならない。中計では脱炭素に関して3ヶ年の目標を設定している。2024年度までに自社が排出する温暖化ガスを2016年度比53%削減する。その一環として国内の工場や事業所で使う電力を再生可能エネルギーに切り替え、全76拠点で「カーボンゼロ」を実現する。米アップルのように、サプライヤーに製造段階でCO2を排出しないカーボンゼロの製品を求める動きが出てきている。オムロンは主力製品をカーボンゼロの工場で作ることで付加価値を高めていく。「取引先からカーボンニュートラルに取り組んでいる工場で作った製品を求められている。取り組んでいなければサプライチェーンから外されるリスクが目の前にある」という。”

“一方、石油やガス、鉄鋼などCO2排出量の多い企業にとって、脱炭素社会への「移行」は事業ポートフォリオの抜本的な改革が必要な重要課題だ。莫大な資金も必要となるため、資金用途を脱炭素への移行プロジェクトに限定した「移行債」を発行する企業が相次いでいる。第一生命保険は9月、移行に必要な資金需要が今後さらに拡大するとみて、移行債を購入する際の判断基準を明確にした。例えば、2050年ネットゼロに向けた定量目標やロードマップがあるかどうかといった点を見る。CO2排出量の多い企業は移行資金を調達するためにも、より説得力のある戦略や計画を示さなければならない。企業は実効性のある計画を示さず、脱炭素を単に宣言するだけの「勝手にネットゼロ」から抜け出さなければ、投資家が離れていき、持続的な成長はおぼつかなくなるだろう。”

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